六代目金原亭馬好真打昇進襲名披露興行「竹の水仙」

新宿末廣亭の馬久改メ六代目金原亭馬好真打昇進襲名披露興行に行きました。
「出来心」柳家小じか/「馬大家」春風亭一花/アコーディオン漫謡 遠峰あこ/「堀の内」柳家小平太/「託おじさん所」林家きく麿/奇術 小梅/「権助芝居」橘家圓太郎/「河豚鍋」古今亭菊之丞/粋曲 柳家小春/「宮戸川」柳家さん喬/中入り/口上/漫才 すず風にゃん子・金魚/「小言念仏」金原亭馬生/「ナースコール」林家なな子/太神楽 翁家社中/金原亭馬好「竹の水仙」
口上の司会は菊之丞師匠。お父さんはベーシストだそうで、シャンソン歌手の井関真人のバックバンドなどを勤めているそう。親子どちらも「ベースがしっかりしている」と洒落た。そして馬好という名跡をさらに大きくしていく逸材だと評した。
圓太郎師匠。身長179センチの大きな体から発する低くて優しい声でゆったりと喋るのが魅力で、尚且つ挨拶をしっかりする礼儀正しい男だと人間性も褒めた。真打というのはボジョレーヌーボーの解禁と同じで、収穫仕立ての新鮮な味わいを楽しむもの。それが何年もかけて熟成され、タンニンが丸みを帯びてきて、やがて思いもよらない上質な味を醸し出していく。馬好をワインに喩えて、その将来性に期待した。
さん喬師匠。ある日、鈴本の楽屋で一花さんから馬久さんと結婚することになったと報告されたときは驚いたそう。前座の頃から人気も実力もあった一花さん、人を見る眼もしっかりしていると感心した、と。笛が上手で、ご主人の披露口上で笛が吹けることは羨ましいし、馬好も励みになっているだろうと喜んだ。
馬生師匠。馬久が二ツ目になったとき、「同業者とは一緒になっちゃいけないよ」と忠告したのに…と(笑)。同じタイミングで馬久が私に、一花さんが一朝師匠に結婚の報告をした。私はおめでたいことなので認めたけれど、一朝師匠は「大事な弟子を盗られた」と未だに認めていないそう(笑)。片方が売れて、片方が売れないと夫婦は悲しい思いをする。今、売れている一花さんに負けないように頑張ってほしいと願った。
馬好師匠の「竹の水仙」。鳴海宿の尾州屋源兵衛の主人の人の好さがとても微笑ましい。「今年で19人目の一文無し」を泊まらせてしまうのも、ぼんやりしているところはあるかもしれないが、正直で優しい気持ちの持ち主だからこそ、なのだろう。その分、女房がしっかり者。馬好・一花夫妻に重ね合わせて聴くお客さんも多かったのではないか。
甚五郎に対して、10日分の堪った宿賃を請求するところも遠慮がちだった。細川越中守の家来の綿貫権十郎に竹の水仙の代金を言うときもそうだ。甚五郎の「他の大名ならもう少し欲しいところだが、相手が越中であれば200両に負けておこう」という言葉を、尾州屋主人は綿貫に対して躊躇ってしまい、なかなか言えないのも、人の好さゆえに思う。
綿貫が殿様に「あれは甚五郎の作、世に二つという彫り物だ。もし売り切れていたら切腹だ」と怒られて、慌てて尾州屋に引き返したときに、主人は悪戯で「売り切れました」という札を出す。尾州屋はそういう人間的な魅力のある男だなあと思う。だから、多少ぼんやりしているところがあっても、女房は亭主の人の好さに惚れて夫婦でいるのではないかと思う。
その主人が結局、綿貫から詫び賃と膏薬代含め300両を貰ったことを甚五郎に報告すると、甚五郎はこう言う。正直者が馬鹿を見るということなどない。わしは人を見かけで判断しない、真っつぐな男が好きだ。だから、お前の正直に惚れて、この竹の水仙を彫ったのだ。
甚五郎の名人譚としてだけでなく、尾州屋源兵衛の人間的魅力が溢れている馬好師匠の高座。お見事だった。