スナックヒヤシンス祭り 林家きく麿「バスツアーでびびくりマンボ」「やまだ初登場(エピソードゼロ)」

上野鈴本演芸場九月中席初日夜の部に行きました。今席は林家きく麿師匠が主任を勤め、「スナックヒヤシンス祭り」と銘打った興行だ。きく麿師匠が自作の「スナックヒヤシンス」第2話から11話までを連続で掛けるほか、日替わりゲストが毎日「スナックヒヤシンス」第1話の「じゅんことあきこ」を演じる。きょうは日替わりゲストが柳家喬太郎師匠、きく麿師匠は第2話「バスツアーでびびくりマンボ」だった。

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喬太郎師匠、演じる前は気が進まないと口では言っていたが、噺に入るとノリノリで、「意外と楽しいじゃん!」。冒頭の柿ピーを食べる仕草、「古典っぽくなっちゃう」と言いながら、文蔵師匠の「馬のす」に被せて枝豆を食べる仕草も挿入したのも良かった。「ヤマダの悪口はじまるよ!」からはじまる一連のアクションもノリノリで、「柳家のDNAが」「会長に見せられない」と言いながら、キモーイ!キモイ、キモイ!、クサーイ!クサイ、クサイ!びびくりマンボ!といった定番フレーズを実に器用に演じていて愉しい。

ヤマダのことを「人にして人に非ず」「ヤマダにしてヤマダに非ず」ときく麿師匠にないフレーズも飛び出すのは流石。また、ヤマダが現れてヒロコとデュエットする歌も「恋のオーライ坂道発進」ではなく、「東京ホテトル音頭」にするアレンジは客席が大いに盛り上がった。

きく麿師匠の第2話。ジュンコとアキコが15年ぶり慰安旅行でさくらんぼ狩りツアーに出掛ける噺。そこでヤマダがヒロコと結婚したのに、たった5日でヒロコが耐えられなくて逃げたという衝撃の事実にさもありなんと思う。

ニコニコ観光の女性ツアーガイドのタケヤマさんが歌う「黄色いサクランボ」が超下手くそなのが可笑しいが、それに続いてジュンコとアキコが♬ガイドの嫌いなとこ挙げて!とヤマダの悪口と同じ手法で「男に色目を使っている」とか「鞄に饅頭隠している」とか、ノリノリで言い合うところはヒヤシンスシリーズの真骨頂か。

同乗していたタナベという男性客がジュンコにみかんをよかったら食べてと渡すと、ジュンコはつかさず店の名刺を渡して「是非いらしてください」と営業するところは抜け目ない。そして、勝手にバスの中でカラオケ大会を始め、司会進行。タナベが歌う「ワンマンバスの女」の歌詞が面白かった。バスの女性ベテラン運転手は8人の男を乗り換えて、5人の子どもを育てているという…。

そして、次に歌われたのが「恋のオーライ坂道発進」!気がつくと、そこにはヤマダがいた!ヒロコに捨てられ、マッチングアプリで知り合った女性と交際しているという。その相手の女性が…このツアーバスのガイド、タケヤマさん!びびくりマンボ!思わぬ急展開が可笑しい高座だった。

上野鈴本演芸場九月中席二日目夜の部に行きました。今席は林家きく麿師匠が主任を勤め、「スナックヒヤシンス祭り」と銘打った興行だ。きょうは日替わりゲストが柳亭こみち師匠、きく麿師匠は第3話「やまだ初登場(エピソードゼロ)」だった。

「弥次郎」入船亭辰むめ/「熊の皮」春風亭一蔵/太神楽 翁家社中/「ホームランの約束」春風亭百栄/「夏泥」橘家文蔵/漫才 ロケット団/「粗忽長屋」柳家はん治/「スナックヒヤシンス①じゅんことあきこ」柳亭こみち/中入り/ウクレレ漫談 ウクレレえいじ/「長短」古今亭文菊/紙切り 林家楽一/「スナックヒヤシンス③やまだ初登場(エピソードゼロ)」林家きく麿

こみち師匠。「暇だから、やっちゃう?…はじまるよ!はじまるよ!ヤマダの悪口はじまるよ!」と腰を振りながら、ノリノリ。財布がヌルッとしている、牛乳がこぼれたときに拭いた雑巾の匂いというのが可笑しい。「人の悪口じゃありません!ヤマダの悪口です!」というフレーズも愉しい。

柿ピーを齧ったネズミに「モモエ」という名前を付けたというのは、こみち師匠独自のギャグか。「恋のオーライ坂道発進」の前奏を鼻をマイクに近づけて、ビンビンビン~と楽しそうにやっているのが良い。ヤマダとヒロコがデュエットを歌い終わって、結婚するんだと告白したときのママの「相手はヤマダですぞ!」を繰り返すのも面白くて、ヒロコが「耳の裏の匂いが私のおじいちゃんと同じなんです」と言うと、「結婚を匂いで決めちゃいけない」と返すママが最高だ。

きく麿師匠の第3話。スナックヒヤシンスの真向かいにスナックチューリップという店が開店し、大層繁盛しているらしいというので、敵情視察に行くママとアキコ。「同じ球根植物ですぞ!」に笑っちゃう。「スースーするガムに匂いがするおしぼり」とか、「トイレにお口をクチュクチュする液があったので持ってきた」とか、お勘定1万円にびびくりマンボしていたが、成果ありかも。

スナックチューリップで、浮気して夫と別れ、子どもとも別れ、慰謝料取られて、交通事故で膝を壊して車椅子生活になった女を歌った「車椅子」という暗い歌を歌っていた男がヒヤシンスに入店する。ママは「客を奪ったと思われる」と拒否するが「一杯だけ飲ませて」「一曲だけ歌わせて」と懇願するので、理由を訊くと「大好きだった死んだおじいちゃんにママがそっくりだから」!

スナックチューリップでは誰も相手をしてくれなくて、無視されちゃうというので可哀想に思い、受け入れるが…。「恋のオーライ坂道発進」を舌をベロベロさせながら気持ち悪く歌うこの男こそがヤマダだった!ヤマダがスナックヒヤシンスの常連になるエピソードゼロを愉しく聴いた。