夏の白鳥の湖 田辺いちか「アニメ勧進帳」、そして落語教育委員会 柳家喬太郎「サニーサイド」

「夏の白鳥の湖~華麗!講談乙女会」に行きました。三遊亭白鳥師匠の作品を若手女流講談師が演じるという趣向の会だ。

「ナースコール」神田鯉花/「アニメ勧進帳」田辺いちか/中入り/「ドラキュラ」神田桜子/「お直し猫ちゃん」三遊亭白鳥

いちかさんはこれまで「豆腐屋ジョニー」や「鉄砲のお熊」といった白鳥作品を講談化して、大変面白かったので期待したのだが、今回は少々難関だったという印象を受けた。元々の白鳥師匠が演じた「アニメ勧進帳」を聴いたことがないので、何とも言えないけれど。

カルピスまんが劇場「アルプスの少女ハイジ」と少年サンデー連載「うる星やつら」がベースにあって、ハイジが可愛がっている羊のユキちゃん(本当は山羊なんだけど)のラム肉と「うる星やつら」のラムちゃんを掛けている。白鳥師匠の原作ではアグネス・ラムと引っ掛けているのだが、流石に世代が違うと変更したそうだ。

この噺の肝は、歌舞伎「勧進帳」の安宅関のパロディ。義経、弁慶一行が関所を通るために、富樫に対して持っている巻物をさも勧進帳であるかのように読み上げるところだ。小学校3年生のタカシの両親が経営する牧場で、タカシが可愛がっている羊のハナコは特異体質で餌を与えても毛が伸びず、栄養が全部肉になってしまう。借金に困った両親はハナコを羊肉として200万円で売却しようとするが…。

それを知ったタカシはハナコをランドセルに隠して、旭川動物園に逃げようとするが、警察官に捕まってしまう。ランドセルのハナコは「ハイジのユキちゃんのぬいぐるみ」と言い逃れして去ろうとするが、ポケットにしまってあったハナコの餌の紙を見咎められてしまう。

タカシは「これは給食の献立表だ」と言って、一週間の献立をさも書いてあるかのように読み上げる。月曜は揚げパン、プリン、ひじきの煮つけ。火曜は食パン、冷凍ミカン、鯨の竜田揚げ。水曜はソフト麺、フルーツポンチ、ミルメーク。木曜は焼き鳥、ホッケ、冷奴。金曜はご飯、チャーハン、エビピラフ。見事に読み上げる。いちかさん、講談師としての本領発揮だ。

だが、ランドセルのハナコがメーと鳴いてしまう。万事休すか、と思ったら、その警察官は自分は小学校時代に給食費が払えず、同級生のヒロシ君が給食を恵んでくれたと涙を流し、タカシを通してあげる。ヒロシというのは、タカシの家に居候している叔父さん。おたく趣味で集めていたポケモンカードを売って、200万円を寄贈するという。ハナコをラム肉のラムちゃんにはできない…。

講談「勧進帳」は非常に神聖な演題であり、「一龍斎の先生方がいるところではとても出来ない」といちかさん。もしかしたら、これきりの口演になるかもしれない。それとも、さらに磨きをかけて新作講談の会などで巡り会えるか。楽しみである。

落語教育委員会に行きました。オープニングコントは経歴詐称編。三遊亭歌武蔵師匠が「胴斬り」、柳家喬太郎師匠が「サニーサイド」、三遊亭兼好師匠が「お化け長屋」だった。開口一番は春風亭貫いちさんで「真田小僧」だった。

喬太郎師匠の「サニーサイド」。同世代として昭和レトロなネタが胸にキュンキュン迫る。小学校の家庭科の授業で作った目玉焼きと粉吹き芋、スーパーカー消しゴム(通称カーケシ)を机の上で飛ばして距離を競う遊び、そしてテレビ漫画「魔女っ子メグちゃん」のテーマソングの最後のシャランラ!

ワンコーラスを気持ち良さそうに熱唱する喬太郎師匠で大いに盛り上がる。部長が「小学校の調理実習の思い出に残る目玉焼きに匹敵する目玉焼き」を作ってくれた奥さんとの馴れ初めが実は…。部長が大切にしていたカーケシがウルトラ警備隊のポインターというのが良いなあ。

兼好師匠の「お化け長屋」は通し。二人目の威勢の良い男が「出るんだろ?無駄を省いて手短にやれ!」と言って、「三年前にいい女が泥棒に殺された」「ガラッと開けたら、血がベットリ」「越してきて三日目、雨」と杢兵衛の怪談噺を添削するのが愉しい。

「越して来る!」と言って一旦去った男が戻って来て、意外と怖がりなのも可笑しくて、長屋連中総出で怪談の再現をする学芸会みたいなところが非常に面白い。最後は八十五歳になるおたけ婆さんを幽霊と間違えて、尻尾を巻いて逃げていく情景が目に見えるようだった。