【大相撲名古屋場所】平幕の琴勝峰が安青錦を破って堂々の初優勝

大相撲名古屋場所千秋楽、2敗で単独トップに立っていた琴勝峰が3敗で追っていた安青錦を突き落としで破り、初優勝を果たした。平幕優勝は去年春場所の尊富士以来である。

琴勝峰が波に乗っていた。序盤戦こそ3勝2敗だったが、六日目から破竹の10連勝。前頭15枚目ではあったが、十二日目に小結・高安、十三日目に横綱・大の里、十四日目に関脇・霧島を次々と撃破した。突き押しで前に出る相撲を中心に、右差し左上手を取っての四つ相撲でも実力を発揮、取り口が一回り大きくなった印象を受ける。また、実弟の琴栄峰が新入幕したことも刺激になったのかもしれない。一昨年初場所千秋楽に大関の貴景勝との相星決戦に敗れて逃した幕内最高優勝を手にした。

今場所は大の里が新横綱としてデビューし、横綱3場所目の豊昇龍と東西両横綱が並ぶという本来あるべき番付が実現し、優勝争いはこの二人を中心に展開することが予想された。ところが、豊昇龍は二日目に若元春、三日目に安青錦、四日目に阿炎に3日連続で金星を配給してしまい、早々に休場。残った大の里に期待がかかったが、十三日目までに王鵬、伯桜鵬、玉鷲、琴勝峰と新横綱としては過去最多の4つの金星配給を記録してしまった。

十三日目を終わった時点で、2敗に安青錦、琴勝峰、3敗に熱海富士、草野。事実上優勝はこの4人に絞られ、平幕の優勝が確定的なものとなった。そこを抜け出したのが琴勝峰というわけだ。平幕が盛り上げた名古屋場所といえよう。

安青錦は新入幕以来、3場所連続して11勝を挙げる活躍ぶり。レスリング経験を生かした前傾の低い姿勢から攻める相撲に加え、内無双、渡し込み、下手捻りといった技を繰り出して勝ち星を積み上げた。三日目の豊昇龍戦で初土俵から所要12場所で金星を挙げたのは付け出しデビューの力士を除くと史上最速。技能賞受賞も文句のないところだ。

草野は今場所が新入幕だが、11勝を挙げた。突き押しで前へ出る相撲もあれば、差し身の巧さでも引けを取らず、霧島に対し差して攻めながら外掛けに仕留めた一番は印象的だった。敢闘賞に加えて技能賞を受賞したのは、これらの取り口が評価されてのことだろう。

40歳のベテラン、玉鷲が11勝で殊勲賞というのは、連日パワフルな押し相撲を展開していた相撲内容もさることながら、横綱・大の里を土俵際逆転突き落としで破った一番への評価だと思う。昭和以降、最年長の金星であり、最年長の三賞だ。若手の手本として、いつまでも活躍してほしい。

草野と並んで新入幕の若碇改め藤ノ川が10勝して、敢闘賞を受賞したことも嬉しい。幕内下位での相撲であったが、連日小兵ながらキビキビとした相撲で「小よく大を制す」という大相撲の醍醐味を味わうことができた。翔猿や宇良とはまた違ったタイプの小兵力士、番付上位に上がっても土俵を沸かせてほしいと思う。

今場所は平幕力士の奮闘で盛り上がったが、横綱以下役力士の来場所以降の奮起を期待したい。豊昇龍は先場所こそ12勝を挙げたが、運動神経に頼る相撲がまだ多く見られ、横綱としての安定感に不安がある。大の里は新横綱としてのプレッシャーに押し潰されたと好意的に解釈もできるが、強引に引く悪い癖が時折出るのが気掛かりだ。横綱という最高位という自覚を持って、両力士ともに精進してもらいたい。

大関の琴櫻は今場所も8勝7敗。ギリギリの勝ち越しが、3場所続いている。相撲に覇気がないというか、自分から攻めるというより受け身に回っている相撲が多すぎる。一度は横綱候補と言われた意地を見せることが今後出来るのか。注目していきたい。

次の大関獲りレースは若隆景が今場所二桁に乗せて一歩リードしたが、今ひとつ力強さが欠ける。技術面の巧さは誰もが認めるところだが、相手を圧倒する馬力に難点があるように思う。霧島は8勝しか出来なかった。前半戦は好調のように思えたが、終盤戦で失速した。今場所ケガのために休場した大栄翔同様、新規巻き直しだ。

そう言っているうちに、安青錦や草野といった新勢力に一気に抜かれてしまう可能性もある。逆に言うと、彼らがトントンと先に昇進することも大いにあり得る。

今の横綱以下の番付は確固たる実力によって保証されたものではないということだ。横綱二人が相次いで誕生し、群雄割拠の時代に終止符を打ったように思ったが、まだまだ相撲界の地図は大きく塗り替わる要素が多分にあるようだ。相撲は取ってみないとわからない。こんな当たり前のことを改めて教えてくれた名古屋場所だったような気がする。