鈴本演芸場七月上席四日目夜の部 桃月庵白酒「喜劇 駅前結社」

上野鈴本演芸場七月上席四日目夜の部に行きました。今席は柳家喬太郎師匠が主任を勤める「お客様のおかげで昨年の企画が受賞理由になりました。なので、今年の企画のネタもお願いします」と銘打った特別ネタ出し興行だが、本日は休演。代バネを桃月庵白酒師匠が勤め、「喜劇 駅前結社」を演じた。

「やかん」三遊亭歌きち/「子ほめ」柳家小太郎/ジャグリング ストレート松浦/「真田小僧」柳家喬之助/「スナックヒヤシンス」林家きく麿/三味線漫談 林家あずみ/「へっつい幽霊」むかし家今松/「あくび指南」松柳亭鶴枝/中入り/紙切り 林家二楽・八楽/「あゆむ」林家彦いち/「権助魚」五街道雲助/ものまね 江戸家猫八/「喜劇 駅前結社」桃月庵白酒

白酒師匠の「喜劇 駅前結社」は柳家喬太郎作。かなり初期の作品で、設定の奇抜さ、伏線を回収する展開、力技を必要とするが、“こじつけ”でねじ伏せる面白さが満載の噺を白酒師匠は楽しそうに演じているのが良かった。

蕎麦屋を経営している店主の父は一人娘のノブコに小言を言う。「新しいものが悪いと言うわけではないが、守るべきものはある」。ノブコが新メニューとして開発した「たらこそば」についてだ。ノブコは機嫌を損ねて出ていってしまった。

店主は常連客のヤスに「婿に来てくれないか」と頼むが、ヤスは「やりたいことがあるから」と断る。落語家になる夢があるのだという。弟子入りしたい師匠がいて、近々神戸に引っ越すという。

サラリーマンの二人客が入ってくる。親子丼と鴨南蛮を注文したこの二人の会話に耳を澄ます。「引継ぎ、頼むよな」「でも、面倒くさいのが大手町の稲葉物産の小原係長なんですよね…あの泣き脅し。ついた渾名が“泣いたカワウソ”」。店主は「泣いたカワウソ」というフレーズに反応する。まさか、そんなところにいたのか。

店主は妻と娘のノブコを「大事な話がある」と呼ぶ。「泣いたカワウソの居場所が見つかった。父さんは30年前、ブラジル移民を志した。コーヒー農園で一山当てようという夢を抱いて、南米大陸行きの移民船に乗った」。だから、メニューに「コーヒーそば」があるのねとノブコは合点がいく。

だが、船は嵐に遭い、難破し、到着したのはプノンペンだった。右も左もわからない異国の土地で、手を差し伸べてくれ、親切にしてくれたのがポルポト派だった。手に職をつけろと、蕎麦の打ち方、出汁の作り方、天婦羅の揚げ方…丁寧に教えてくれた。ようやく暮らしが落ち着いたときに、知り合ったのが現地でプノンペン小町と呼ばれていた今の母さんだ。所帯を持った。

そして、日本に帰り、難破船に乗っていた仲間たちと駅前商店街を立ち上げ、一人前の蕎麦職人とし父さんも自立できた。そんなとき、親切だったポルポト派の人が内戦で殺されたという報せが入った。殺した男のコードネームは「泣いたカワウソ」。何とか仇を討ちたいと仲間で駅前結社を組織し、情報を収集していたのだった。

「これから長い草鞋を履かなくてはいけない。一代で築いた身代は女房と娘に託す。これも定めだ」。でも、大手町は丸の内線で一本じゃないかというノブコの言葉も聞かずに、父は「後のことは頼んだぜ」と出て行ってしまった。駅前結社は大手町の稲葉物産に向かった。だが、すぐに戻って来てしまう。「泣いたカワウソはただの渾名だった…」。

新しい情報が入る。「泣いたカワウソ」は偽のコードネームで、本当のコードネームは「笑ったラッコ」。それもうちの町内にいるらしい。お前の蕎麦屋に出入りしていた奴じゃないか?落語…ラッコ?繋がった!あの常連客を装ったヤスが犯人だったとは!ずっと見張られていたのか。あいつは神戸に引っ越すと言っていた。

蕎麦屋で母と娘ノブコが会話をしている。「お父さんの気持ちがわかったわ。私、たらこそばはやめる。新鮮なタラコを洗って裏ごしして、山葵の代わりの薬味にするの」。そこへ父親が帰ってくる。「犯人はラッコだ。笑ったラッコ!」「洗ったタラコ?」「しまった!越しやがった」。白酒師匠の話芸が光る痛快な高座だった。