立川吉笑真打昇進披露興行IN高円寺 六日目「歩馬灯」

「立川吉笑真打昇進披露興行IN高円寺」六日目に行きました。
「花魁の野望」三遊亭わん丈/「MCタッパ」柳家わさび/「意地くらべ」春風亭一之輔/中入り/口上/「棒鱈」春風亭柳枝/「歩馬灯」立川吉笑
わん丈師匠の口上。ある日、吉笑兄さんから電話がかかってきた。「帝国ホテルの披露パーティー、いくらかかった?」。普通、芸人はこういう生々しい質問は粋ではないとされ、してこないものだが、吉笑兄さんは京都、私は滋賀という関西人の気質で通じるものがある。「〇千〇百万、かかりました」「ありがとう!」。その御礼できょうの披露目に出演させてもらったのかも、と(笑)。
前座から1年5カ月で二ツ目昇進。2021年、渋谷らくご大賞と創作大賞W受賞、22年も渋谷らくご大賞、そしてNHK新人落語大賞、23年は公推協杯全国若手落語家選手権優勝。輝かしい経歴を列挙した後、「この後、お酒で色々ボロが出るところを見届けるのが楽しみです」と冗談を飛ばした。
柳枝師匠の口上。二ツ目になったばかりで「現在落語論」を著し、家元の「現代落語論」に匹敵する衝撃を受けた。このような十日間の披露目を自分独りで企画し、プロデュースする才能と実行力のある人で、大袈裟に言えば「落語界を変えていく人」、落語協会にはいない天才だと褒めた。手を取って共に登らん花の山、立川吉笑をどうぞよろしくと締めた。
わさび師匠の口上。初対面はざぶとん亭の馬場さんが吉笑・わさびの二人会をやりたい、ついては三人で飲みませんかと誘われて会ったとき。一軒目のイタリアンレストランから二軒目のバーに移動すると、吉笑さんは「目が座ってきた」。そして、「お前、キモイねん」と語気を荒げて絡んできた。当時は「むかつく」後輩が出てきたと思ったと今回の昇進を嬉しそうに冗談まじり、愛情いっぱいに振り返っていたのが印象的だった。
一之輔師匠の口上。基本的に理屈っぽい人が嫌いだ、と。師匠一朝には「だいたいでいいんだよ」と教わり、修業した経験を出していくのが芸だと思っている。一方で、立川流は小理屈をこねる人が多い、それはもしかすると自分にとって「憧れ」なのかもしれないという。
こうやって自分が積み上げてきたものを十日間の披露目で見せていることは素晴らしいことだが、まだまだ蕾の段階であり、これから5年から10年でドーンと開花させなくてはいけない。披露目の後、どう走り続けるかが大事。そのためにはお客様が責任をもって背中を押してあげてほしいと願った。
吉笑師匠の「歩馬灯」。妻にパンを買ってきてくれと言われ、雨の中、信号を無視して道路を渡り、交通事故に遭って意識不明になってしまった主人公マサキの頭の中を走馬灯のように過去の記憶が映し出される。しかも、ものすごくゆっくりとしたスピードというのが面白い。
幼稚園の入園式に行く前に、母親に靴を履けと言われているのに、なかなか履かないマサキ。幼稚園でユウコちゃんと一緒に誕生日を祝ってもらうも、ケーキの上の蝋燭がうまく消せないマサキ。お遊戯会で桃太郎という主役に抜擢されるも、「僕は桃太郎。鬼退治に来ました」という台詞から先に進めないマサキ。クリスマスにサンタさんに会うと言って寝なかったり、お正月に雑煮に餅をいくつ入れるか母親と同じやりとりを繰り返したり…人は死ぬ間際に過去の記憶が「走馬灯のように」蘇るというが、この走馬灯は長くないか?思っているテンポと違う。4歳からなかなか先に進まないのが可笑しい。この後、37年分あるというのに…。
仲良しのケンちゃんと、串に刺すおでんの具を何にするか、厚揚げ、大根、竹輪の順番を言い合ったり、水野真紀と水野美紀はどっちがアクティブで、どっちがおしとやかか言い争ったり。走馬灯に映し出されるディテールが細かすぎて面白い。
病院に運ばれて意識不明のマサキに妻が「楽にしてあげる。今までありがとう」と言って、延命措置のチューブを外そうとすると、マサキの走馬灯が一気に小学校、中学校とスピードをあげて映し出されるが…。医師が「まだ諦めちゃいけません」と言って、元に戻すとまたゆっくりしたテンポになる。マサキは「これは自分の人生を反省しろということなのか?もっと頑張れば良かった」と思うと、遠くの方から光が廻りながら近づいてきて…。自分を客観視する、もう一人の自分がいるという、何とも哲学的な終わり方が吉笑師匠らしい落語である。