立川吉笑真打昇進披露興行IN高円寺 五日目「犬旦那」

「立川吉笑真打昇進披露興行IN高円寺」五日目に行きました。

「締め込み」立川談洲/「あくび指南」立川志らべ/「長短」立川談修/「七面堂」立川志遊/漫才 米粒写経/「やかん」立川志らく/中入り/口上/「粗忽の釘」立川談笑/漫才 キュウ/「犬旦那」立川吉笑

志遊師匠の口上。七年間禁酒をして、真打になった。立川流の酒癖の悪い三巨頭は文字助、左談次、ぜん馬…皆、あの世に逝ってしまった。吉笑は「酒癖が悪い」ことを承知で御贔屓いただきたいと願った。

志らく師匠の口上。あまり吉笑とは付き合いが深くないが、「気が利く」後輩だなあといつも思っていた。私が好きな食べ物やお菓子をツイートしているのをちゃんとチェックしていて、それを楽屋に用意している。これは芸人にとってはとても大事なこと。また、人脈が広い。昇進披露のパーティーでは、その人脈の広さを世間に知らしめた。

芸については、才気を感じる。酒癖が悪いのは面白くていい。私の弟子のらく兵みたいに身内に迷惑さえかけなければ(笑)。酒のしくじりがマクラのネタになるし、社会の不適合者の方が落語家らしくていい。マイナスの要素を見つけるとすれば…髪型か。安物のワインのコルクみたい。そのうち華となって売れていくでしょう。逸材であることは間違いないと褒めた。

談笑師匠。吉笑は兎に角、ひたむきで正義感が強いのが良い。そして、新作だけでなく、古典もやる。今後は古典の割合も増えていくと思う。「文七元結」や「芝浜」などを手がけて、ネクストステージを見せてくれるに違いない。古典も新作もという二刀流は昔はいなかった、古典に新しいギャグを入れるというのもあまりいなかった、その意味でパイオニア的存在なのが志らく師匠だ。

勿論、談志というベースがあるが、志らく師匠が落語を活性化させた功績は大きい。その流れに一之輔くんがいるのであり、吉笑もいる。天国で談志に「やりやがったな」と言わせる落語をやってほしい、真打はゴールではなく、スタートラインなのだと期待を寄せた。

吉笑師匠の「犬旦那」。渋谷らくごの三題噺から生まれた作品だ。口入屋に紹介された定吉は「まず大旦那にきちんと挨拶をすること」と書かれた紙を持って、お店を訪ねる。だが、いくら声を掛けても返事がない。失礼しますと言って、襖を開けると床の間の前に犬がいる。人懐こい犬で、じゃれあっていると、そこに番頭が入って来て、「失礼なことをするな!なれなれしい!」と叱る。この犬こそ旦那で、紙に書かれたのは「大旦那」ではなく、よく見ると「犬旦那」だったという…。

この店で一番偉いのが「犬」。犬が旦那だという。定吉が呆れると、番頭は「差別するのか?命の尊さは皆、同じだ」と怒られる。そもそも、犬が旦那になったわけとは…、野良犬のクロの立身出世物語が面白い。

先代の旦那が相模屋さんが来たから「お茶を持ってくるように」申し付けるが、一向に茶が出てこない。この様子を察知したクロは「恩返しをしよう」と気遣い、代わりにお茶を淹れて運んで来たのだ。相模屋は感心し、これが商いにつながった。先代の旦那はクロに「もしかして、奉公したいのでは?」と気づき、クロの下働きが始まった。

兎に角、仕事が出来る。他の奉公人からのやっかみもあり、足を引っ張られ、悩んだ時期もあったが、それを察した旦那は「お前は仕事が出来すぎる。もっと愛嬌をもって、犬らしく振る舞え」とクロに教える。ここから犬としての芸を身に付ける特訓がはじまった。

おすわり!と言うと、座禅を組んだ。お手!と言うと、大仏のポーズを取った。「仏様の生まれ変わりか?」と旦那は思う。伏せ!と言うと、自分の朝御飯を他の犬たちに施しはじめた。布施か。旦那はクロを跡取りにしようと考えた。梵語で施しの意味の「ダーラー」から旦那という言葉が生れたのだという。クロが舌を出して、ハーハーしている。よく聞いてみると、般若心経を読経しているのだった。

犬旦那が定吉に教える。「店は誰のものか、判るか?」「それは旦那のものでしょう」「いや、違う。店で働く奉公人、それにお客様、皆のものだ」。与えられた役割を全うする、すなわち自分らしくいることが大切だと説く。

大旦那ならぬ犬旦那、それもブッダの申し子のような旦那ぶりにキャラクターを造型する吉笑師匠の手腕が冴えた一席である。