ザ・桃月庵白酒「大山詣り」「抜け雀」、そして林家きく麿 スナックヒヤシンスおさらい回

「大手町独演会 ザ・桃月庵白酒」に行きました。「茗荷宿」「大山詣り」「花筏」「抜け雀」の四席。
「大山詣り」。神奈川宿の湯殿で暴れた熊五郎に散々殴られた腹いせに、決め式通り熊五郎の頭を丸めてしまおうと、八五郎と半次が泥酔して眠っている熊五郎自慢の丁髷頭を剃刀でツルツルに剃ってしまうところ。そして、翌日に大山詣り一行が熊五郎を除いて宿を立ってしまった後、女中に起こされた熊五郎が「お坊さん、さっぱりしたでしょう」と言われ、自分の頭を触って「やられた!」と気が付いたところ。軽妙な描写でとても可笑しい。
だが、敵もさるもの。熊五郎は先廻りして長屋の大山詣りに行った人間のかみさん連中を呼び寄せ、金沢八景からお祖師様をお詣りしようと船に乗ったら急に雨風が激しくなり転覆、自分だけ生き残って、皆は死んでしまったという作り話をでっちあげ、供養だと言ってかみさん連中を全員尼さんにしてしまうという…。「亡者が迷い込んできた…成仏できるよう」と言って、皆で百万遍の念仏を唱える光景が目に浮かぶ。先達の吉兵衛さんが「冬瓜船が辿り着いたようだ」という表現が何とも愉しい。真面目に考えれば、熊五郎は嫌な奴かもしれないが、そこは落語と割り切って笑うのが良い。
「抜け雀」。今度は小田原宿が舞台。相模屋主人はまたしても一文無しを泊めてしまった。「お前さん得意の一文無し、またやっちゃったんじゃないの?」と指摘する女房は鋭いが、主人が女房の尻に敷かれているんだけれども、愛妻家でお人好しというのがとても良い。
狩野派の絵師が「官能派のS」は白酒師匠お得意の空耳アワーで楽しい。一文無しが5両のカタに衝立に描いていった5羽の雀が朝になると餌を啄みに抜け出るという噂が広がり、商売が繁盛する。大久保加賀守が千両で買い取ると言っても、絵師との約束を守って手放さない相模屋主人の律義さも好きだ。
絵師の父親が訪ねて来て、衝立の雀を見て「名人?素人に毛が生えたようなものだ。ぬかりがある。止まり木が描いていない。休まるところがなければ力尽きて死ぬぞ」と指摘し、止まり木と籠を描いて去る。そのときに、「わしは縮緬問屋の隠居だ」と言い残したが、それが後日に一文無しだった絵師が現れ、「自分の父親。狩野派の絵師」と判明したときの相模屋主人の台詞。「かつがれた。それで駕籠を描いたのか」という鮮やかなサゲは初めて聴いた。
「スナックヒヤシンスおさらい回」に行きました。林家きく麿師匠が「スナックヒヤシンス」の5と7と9を演じる会。9はネタおろしだった。近々10まで創作して、鈴本演芸場の9月中席で「スナックヒヤシンス祭り」をやるそうだ。楽しみである。
「スナックヒヤシンス5」。ヒロコがヤマダと結婚して店をやめ、その後に離婚している。そして、キョウコ新しく入って、店で働き始めてから売り上げが20倍になったという…。ママのジュンコとチーママのアキコを両天秤にかけて、「私は幼い頃に両親を亡くし、家族と呼べる人がいない。あなたはお姉さんみたいな存在だ」と二人どちらにも告白していて、うまく身を処しているつもりだったが、「ヒロコの妹」ということがバレているのを知らなかったというミスをしているのが可笑しい。
客から歌う曲のリクエストを取って、「赤いスイートピー」「コーヒールンバ」「昔の名前で出ています」と挙がるが、いつも歌うのは♬夢のつづき。夜の女の午後3時、普通の女の11時というフレーズが面白い。キョウコも「ヤマダが大嫌い」と言って共感してもらおうとするが、ジュンコとアキコは「キョウコの悪口はじまるよ!」で、「隠れて煙草を吸っている」とか「お酒を飲めないふりしている」とか盛り上がるのが愉しい。
「スナックヒヤシンス7」。ママのジュンコが入院した。膀胱炎ということで、もう40日入院しているが、アキコたちには「見舞いに来るな」と言っている。常連客のタナベさんから見舞金1万円を貰ったからと言って、アキコが無理やり病院に押しかける。「ヤマダとサクライが意気投合してデュエットした」と話すと、ジュンコが「聞いてみたかった」と言う。
すると、後ろからヤマダとサクライが現れて、♬俺とあいつが叫ぶ夜を歌う。サクライの滑舌が物凄く悪いのが肝で、二人の掛け合いになって歌うところは、きく麿師匠の真骨頂だ。
そこにヒロコが現れる。離婚したヤマダがいる!とビックリするが、ヒロコは生命保険の外交員を今はやっているのだった。ジュンコが保険に入ったら入院したので、「入院保険が一日5千円出る」ため、手続きにやって来たのだ。そして、入院保険は30日までしか出ないことを知らされたジュンコは愕然とするという…。退院して店で働くより儲かると喜んでいたジュンコが面白い。
「スナックヒヤシンス9」。ジュンコは調剤薬局の待合でアキコと一緒に無料サービスのコーヒーを飲みながら順番を待っている。アキコが「受付番号は何番なのか」と訊いたら、ジュンコは処方箋など提出しておらず、「ただでコーヒーが何杯も飲めるから」待合にいたのだった…。
「なんというケチ!」とアキコが言うと、ジュンコが「あなたこそケチだ」と言い争いをはじめる。キョウコに訊くと、「どっちもケチです」。じゃあ、決着をつけようと、ケチケチ対決イベントを開くことにした。入場料1万円なのに、二人の対決を見たいと20人も集まった。
キョウコが前座として、♬痛快ケチケチ音頭を歌う。これがまた愉しい!拾ったチクワで腹こわす~。そして、アキコvsジュンコの罵り合い。途中、余興でヤマダの唄♬恋のオーライ坂道発進、サクライのお蕎麦茹で実践が入るのも可笑しい。そして、結果は引き分け。理由は再試合をして、また入場料で儲けようという…。まだまだ、きく麿ワールド全開の「スナックヒヤシンス」は続くのだ。楽しかった!