立川寸志 トリ噺五十席「らくだ」

「立川寸志 トリ噺五十席」に行きました。「七段目」と「らくだ」の二席。

「らくだ」。丁の目の半次が屑屋の久六に対し、月番に香典、大家に酒と煮しめと握り飯、漬物屋に菜漬けの樽も持ってくるように命令するが、嫌がる屑屋に向けて言う脅し文句がすごい。「お前、命は嫌いか?足を右左と動かしたり、目を閉じたり開けたり、息を吸ったり吐いたりしたくないのか?…長屋に出入りできなくなるのと、命のどっちが大事なんだ?」。思わず震えあがる台詞だ。

一通り長屋を廻った後、屑屋が戻ると半次は清めに酒を飲めと勧め、嫌々ながら屑屋は都合三杯を飲むわけだが、そこから屑屋が豹変していく様がとても良い。いい酒ですね。あのしみったれの大家がこんないい酒を持ってくるなんて、よほどかんかんのうが怖かったんでしょう。偉いのは親方だ。銭金が一文もないのに、これだけのことをやっちゃう。流石です。

そして、自分の身の上話になる。元は道具屋の主。親父から引き継いだ。でも、困っている人を見ると世話したくなる性分でね。世話された奴に限って、後ろ足で砂をかけるような真似をするんだ。親父が言っていた。てめえの頭の蠅も追えないくせして、いつかえらい目に遭うぞって。でも、世話してもらうよりも、世話してやった方が良い心持ちでしょ。で、親父の言う通りになった。でもね、親方みたいな人もいれば、あべこべの人もいる。山と積んだ千両箱の上に大胡坐をかいて、目の前にバタバタ死んでいくのを見て鼻唄を歌っている奴。俺は許せない。違うか?

らくだに対する恨みつらみも出る。こいつだよ、元はと言えば。死ねば仏?こんな奴、仏になるわけない。こいつから声を掛けられて、良かったことなんか一つもない。左甚五郎の彫った蛙を一分で買ったら、ピョーンと跳んだ。甚五郎が彫ったから跳ぶんだと。一分返してくれと泣いて頼んだ。すると、らくだは俺を殴り、髪の毛を引っ張って、頭をこの柱にガンガン叩きつけ、血が出た。

「いっそ、殺ってやろう」と思った。半殺しになっても構わない。小指の一つぐらい食いちぎってやろうと思った。だけど、おふくろやおっかあや子どもの顔が浮かんで出来なかった。「すみませんでした」と言って、頭を下げて帰ったんだ。みくびるんじゃねーぞ!

どんどん酒を飲む屑屋に対し、半次が「大丈夫か」とか、「もう、よしなよ」と心配する。屑屋は意に介さず、「しみったれたこと言うな、バカ!」とか「注げよ!だんだん酒が美味くなってきたぞ」と返す。最後には「芋で酒が飲めるか!百姓じゃあるまいし!マグロのブツ、持って来い!くれるの、くれないの言ったら、かんかんのうだ!」。

半次と屑屋の立場逆転にこの噺の肝はあるのだと改めて思う。