一花・いちかふたり会 田辺いちか「出世の茶碗」、そしてM&Oplays「鎌塚氏、震えあがる」

春風亭一花・田辺いちかふたり会に行きました。一花さんが「お見立て」と「祇園会」、いちかさんが「出世の茶碗」と「梅花の誉れ」だった。

いちかさんの「出世の茶碗」は、大元は講談の「細川の茶碗屋敷」、それが落語になって「井戸の茶碗」、それを柳亭こみち師匠が女性版「井戸の茶碗」に作り替え、それをいちかさんが講談に戻したものである。ややこしい!(笑)。大元の「細川の茶碗屋敷」を読んでくれたほうがいいのに…。

浪人をしていた川村惣左衛門が亡くなり、未亡人となった妻まつは一人娘のうめと芝片門前町の裏長屋に暮らしていて、困窮のために屑屋の清兵衛に先祖伝来の仏像を売った。それを細川家の江戸詰めとなった田中宇兵衛が買い求めたところ、台座から50両が出てきて、返却しようとするが…。

「仏は求めたが、金子まで求めた覚えはない」と言う田中氏に対し、まつが「貧すればとて、武家の妻。夫の名にかけて、刀にかけても50両は受け取れない」と拒み、娘のうめも「助太刀いたします」と薙刀を持ち出す始末。清兵衛が大家に仲裁を頼み、ようやく騒ぎは収まった。双方20両ずつ、屑屋が10両という大家の提案に対し、まつはそれでも20両を受け取れないとする頑固な女性だ。

では20両に代わりになる何か品物を…と言われ、まつは「河村家に嫁いだ際に親から譲り受けた茶碗がある」と言って、それを田中氏に差し出す。ところが、その茶碗を田中氏の伯父である吉田久庵が細川の殿様に見せると「足利義輝以降行方知らずであった青井戸の茶碗」であることが判明し、300両が下しおかれる。その半分の150両をまつに受け取ってほしいと願うと、娘うめ十八歳を田中宇兵衛に娶ってもらい、その支度金としてなら受け取るということで決着したという…。

登場人物の名前こそ講談に合わせているが、概ね落語「井戸の茶碗」のストーリーに沿ったものになっている。個人的には大元の講談の方が好きだ。娘を娶らせるという形ではなく、川村惣左衛門の清廉潔白が認められ、細川公の口利きによって元の松平安芸守への帰参が叶い、その御礼として細川公に献上した茶碗を田沼意次が買い取り、その売却金で屋敷が建ったので誰となく「細川の茶碗屋敷」と呼ぶようになったという由来の読み物の方が優れていると思う。

落語の「井戸の茶碗」も好きだ。だが、そもそも茶碗の持ち主を浪人ではなく、浪人未亡人にする必要があるのか。何でもかんでも、女性が演じるからと言って主人公を男性から女性に変えてしまうことに異を唱えたい。

一花さんの「お見立て」。喜瀬川の我儘ぶりに振り回される喜助も愉快だが、何と言っても喜瀬川が「蠅取り紙みたいな男」と言って嫌っている杢兵衛大尽の田舎っぺな人物造型が爆笑を呼んでいた。

「ケスケ、コッケコ―」「ヌーインした?ミメーすべ」「ヒーフになる約束をストカラニッチ」「オッチンダ?ニャートルニャ」「手紙の一本でも書けばヨカンベッチーニ」…。一之輔師匠直伝と思われるどこの方言か得体の知れない、もしかしたらロシア語?みたいな強烈な訛りがとても印象的な高座だった。

M&Oplaysプロデュース「鎌塚氏、震えあがる」を観ました。

三宅弘城が「完璧なる執事」鎌塚アカシを演じる、倉持裕が作・演出の「鎌塚氏シリーズ」第7弾である。「鎌塚氏、放り投げる」(2011)、「鎌塚氏、すくい上げる」(2012)、「鎌塚氏、振り下ろす」(2014)、「鎌塚氏、腹におさめる」(2017)、「鎌塚氏、舞い散る」(2019)、「鎌塚氏、羽を伸ばす」(2022)、そして今回だ。

毎回主役を務める三宅弘城さんの活躍に加え、今回初めてこのシリーズに出演した天海祐希さんの演技力は勿論なんだけれども、存在感というかオーラというか、それが抜群に効果的に作用して、ホラーかつコメディという今回の芝居をとても輝かせていたように思う。

山深い場所にそびえ立つ大御門伯爵家の別邸、通称「幽霊屋敷」が舞台だ。そこには女主人の大御門カグラ(天海祐希)とたった一人の使用人である鎌塚アカシ(三宅弘城)が暮らしている。子どもの頃から霊感が強く、見えるはずのない「もの」が見えるカグラの能力ゆえか、怪奇現象が絶えない屋敷で、アカシは日々怯えながら働いている。そんなある日、一年前に病死したカグラの姉の夫・相良ナオツグ(藤井隆)と、その娘・アガサ(羽瀬川なぎ)が屋敷にやって来る。

カグラとナオツグは何かにつけて衝突、言い争いが絶えない。カグラとナオツグ親子の確執が次第に明らかになり、怪奇現象は日々エスカレートしていく…。事態を打開すべく、ついにカグラは封印してきた力を解き放ち、アカシはガタガタと震えながらも主人のために粉骨砕身。果たして、その怪奇の正体とは…。

怖いんだけど、つい笑ってしまう。面白いんだけど、思わずゾクッとしてしまう。ホラーとコメディが同居した魅力に加え、魔力とともに凛とした美しさを兼ね備えた貴族であるカグラ、そう天海祐希という女優の素晴らしさに唸ってしまう。そして、問題が解決して迎えた大団円での♬守ってあげたいの歌唱もとても良かった。

カグラの姪であるアガサを演じた羽瀬川なぎがパンフレットの中でカグラこと天海祐希について語っているのが目を惹いた。

全キャラクターに好きなシーンがあるくらい全員に対して愛が溢れすぎているのですが、やはりアガサにとって重要な人物であるカグラは、一番私にとって目を引くキャラクターです。天海さんの演じるカグラの迫力や美しさというのを実際に目の当たりにすると、すっと自分もアガサになることができ、一瞬で場の空気を変えて下さるオーラはいつ見ても圧巻です。天海さんとお芝居をする、というずっと掲げていた目標を今回アガサで叶えられることが嬉しくて堪らなく、天海さんのお背中をみて多くの事を学ばせていただいている毎日です。以上、抜粋。

パンフレットの中で出演者の対談コーナーで、天海祐希さんが「鎌塚氏シリーズ」への出演を熱望していたことも明かされている。

天海 劇団☆新感線の舞台での共演以来、三宅マンとは仲良くさせてもらっていたんです。で、「今度これやるから観に来てよ」って誘っていただいたのが鎌塚で。観に行く度にゲラゲラ笑って、あまりに幸せな気持ちになるものですから、ものすごく長文の感想を送っていたんですね。あの人のこんなところが良かったとか、あのシーンのここが良かったとか。でも送ってしまってから、私、なんかものすごく失礼なことをしてしまったかもしれないと思って…。

三宅 で、天海さんが「鎌塚に出たい」って言ってくれているんだよって倉持さんに伝えたら、最初は信じてくれなかったんです。そんなはずないって(笑)。でも実際にお会いしたりして、「もしかしたら本当かもしれない…」って徐々に信用するようになったらしいです。

天海 だって羨ましかったんですよ。客席で見ている時からカンパニーの力はもちろん、あの世界観、それぞれのキャラクターが本当に魅力的で!

この対談は観劇後に読んだのであるが、なるほど!天海祐希さんがそれほどまでに思い入れして出演されたことを知ると、あの素晴らしい魅力的な演技になおさら合点がいった。だから、芝居というのは面白い。