下北のすけえん 春風亭一之輔「按摩の炬燵」

シアター711の「下北のすけえん~春風亭一之輔ひとり会」に行きました。一之輔師匠は今年900席ちょっと掛けたそうだが、一番多く掛けたのが「子ほめ」、二番目が「加賀の千代」、三番目に「笠碁」が続く。いかに寄席を大切にしているかがわかる数字だ。

オープニングトーク 春風亭一之輔/「桃太郎」春風亭らいち/「天狗裁き」春風亭一之輔/中入り/「権助提灯」春風亭貫いち/「按摩の炬燵」春風亭一之輔

「按摩の炬燵」で一年を締めくくれて幸せな気分になった。

番頭さんの了見が素敵だ。どんなに寒くても、奉公の身、我慢をする。それは自分が炬燵を入れると他の奉公人も真似して、万が一火事でもおこしたら、ご主人様に申し訳ないというものだ。部下を持つ中間管理職はかくありたいと思う。

そういう了見の番頭さんの頼みだからこそ、按摩の米市さんは炬燵になることを了承した。別家、すなわち暖簾分けしても良さそうなのに、「まだまだ身の丈じゃない」と言う番頭さんは女房すら持たない。米市さんが「仕事が終わって家に帰るとおかみさんがいると疲れが吹き飛ぶよ」と言って、自分のお見合い体験を話す。相手の肩や背中を押すと、了見がわかると言う。いわゆる心眼だ。だが、相手に「明日も会いたい」と言われ会うのを繰り返していたら、「もうだいぶ肩が楽になったからいいわ」と言われてガッカリしたという失敗談も笑い話にする米市さんも優しい。

身体を温めるために勧められるままに酒を飲んで上機嫌にお喋りする米市さんがとても愛おしい。良い酒だ、これは燗が良いからだ、人肌というが難しいもの、この燗は丁度いい、松どんがつけたの?いける口だね…大丈夫、番頭さんも若い頃は方々に飲み歩いたものだよ。ハゼの佃煮、いいねえ。この苦味がいい。海老の佃煮のあのチクチクが堪らないというご婦人がいるけど、よく判らないなあ…。小林さんのお宅の坊ちゃん、7歳になったけど、小さい頃は「お馬さんになれ」と言われて、よく私に跨った。5歳のときに私の似顔絵を描いて、似ているか見ろというの。あれには弱った…等々。

そして、米市さんが着物を脱いで炬燵の形になると、小僧たちが思い思いに足や手を当てて、眠りにつく。皆、冷たい手だね。大変だね、寒い思いをして。偉いね。でも一番偉いのは番頭さんだ。小さい頃からの仲良しでね、徳どんと呼んでいたけど、仲間の中で出世頭だ。こんなことしているのも番頭さんのお願いだからだよ。昔から優しかった。ガキ大将に苛められると、いつも助けてくれた。目の見えない私の手を引いて、色んなところへ連れて行ってくれて、仲良くしてくれた。

そう言って、もう眠っているかもしれない小僧たちにエールを送る。ありがたいことだよ。お前さんたちも番頭さんみたいになりなさいよ。一生懸命に仕事に励んで、辛い修行を辛抱して、立派な商人になるんだよ。寒い冬の噺だが、心が温まる素敵な高座であった。