趣味どきっ!春風亭一之輔の江戸落語入門(1)(2)
NHK―Eテレ「趣味どきっ!」ニッポンを楽しむ!春風亭一之輔の江戸落語入門の第1回と第2回を観ました。
第1回は「愛すべきダメ主人公の噺」。
与太郎を一之輔師匠は「世の中の常識にとらわれない人」と表現したのが流石だ。受講者の乃木坂46の冨里奈央さんが「そういうポンコツいますよね」と言っていたが、現代の若者が“ポンコツ”という言葉を使うんだ!と新鮮な気持ちになった。
取り上げた噺は「道具屋」。与太郎が売るのを“ガラクタ”と言い切っていたが、確かにガラクタだ。火事場で拾ったノコギリ、ひょろびりの股引、首が抜けるお雛様…。1982年の先代柳家小さん師匠の映像が流れたが、表紙だけの「唐詩選」、動かない目覚まし時計などは現在演じられている「道具屋」に出てくる高座はほとんど聴いたことないので「へぇー」と思った。
そして、粗忽者。そそっかしい人と説明したが、落語の世界ではそこを超越した人物によって笑いが構築される。番組の中ではよみうり大手町ホールで収録された「一之輔十五夜」の中から「粗忽の釘」が紹介されていた。
隣家に謝りの行かなければならないところ、お向こうの家に行ってしまい、「藪から棒ですね」と言われ、「壁から釘なんです」と返すやりとりを何度も繰り返していたのが珍しいなと思ったが、実際一之輔師匠も「普通はあんなに繰り返さないです。このときは偶々そうなった」と言っていた。お客さんの反応を見ながら演じる、落語というのは結構アドリブ芸で、そこが面白いというのが伝わってきた。
サゲを当てさせるクイズで、「明日から」に続く台詞を考えさせたら、乃木坂46の冨里奈央さんが「箒に叩かれる夢を見ちまう」と回答していたのが、ユニークで良かった。ファンタジーではないか。
与太郎や粗忽者を許容する優しい世界、それが落語。一之輔師匠が「足湯に浸かる気分で楽しんでください」と言っているのが印象的だった。
第2回は「粋に生きる!江戸っ子の噺」。
江戸深川資料館での収録で、実際に長屋がこんな感じだったという雰囲気を感じてもらう演出が良かった。展示解説アドバイザーの久染健夫さんが、隣の家との壁が薄く、プライバシーは守られない作りだが、その分お互いのことをよく知っていて、血縁関係でなくても助け合い、仲良くし、チームのような関係だった、それによって暮らしが成り立っていたという説明が分かりやすかった。
江戸っ子というとどんなイメージか?との問いに、モーニング娘。24の野中美希さんが「てやんでぇ!っていう感じ」と言っていたが、まさにその通りで短気で裏表がない、べらんめえ口調の気質こそ江戸っ子だろう。
その代表選手が「啖呵を切る」場面で、番組では1984年の古今亭志ん朝師匠の「大工調べ」を映像で流した。まさに切れ味抜群の啖呵である。一之輔師匠も「志ん朝師匠は憧れの存在」と言っていた。流れた2分42秒の啖呵の字起こしすると、ひらがなで1798文字。1秒に11文字という計算になるというのが興味深かった。
啖呵の中に出てくる「べらぼうめ」はへら棒、つまりは穀潰しという意味、「あたぼう」は「当たり前だ、べらぼうめ」の略だと一之輔師匠が解説していたが、その他の悪口も面白い。呆助、藤十郎、ちんけいとう、芋っぽり、株っかじり。ちんけいとうはおかしな外国人、芋っぽりは田舎者、株っかじりは猿真似野郎という意味だそうだ。啖呵の一部を関根勤さんに挑戦させたのが面白かった。一之輔師匠が「輪島功一さん」みたいという表現が良い。
江戸っ子の気質として、頑固、やせ我慢、負けず嫌いという点に注目して、「強情灸」を取り上げたのも良かった。先代小さん(1974)、志ん駒(2005)、小遊三(1987)、歌武蔵(2021)と4人の噺家が腕に団子のような灸を据えて我慢する様子を並べてみせてくれたが、四者四様で興味深かった。特に先代小さんの顔をアップで捉えた映像、顔がどんどん真っ赤に様子が実に絶品で、流石人間国宝と思わせた。
「強情灸」のサゲ当てクイズ。「五右衛門は」に続く言葉、野中美希さんが「すげえが、こちとら、もっとすげえぞ」という回答が可愛らしくて良かった。