俺のアヅマバシ 春風亭一之輔「シン・アナゴ」、そして談吉イリュージョン 立川談吉「もりかつ」

「俺のアヅマバシ」に行きました。柳亭こみち師匠が「星野屋」、春風亭一之輔師匠が「シン・アナゴ~大川橋由来~」、柳家喬太郎師匠が「文七元結」だった。開口一番は春風亭㐂いちさんで「平林」だった。

一之輔師匠の「シン・アナゴ」、奇想天外な新作落語だ。一昨年12月に聴いているはずだが、すっかりストーリーを忘れていた。面白い!

大川に巨大な化け物のようなアナゴが現れ、江戸の庶民を脅かすというのが発端だ。渡し船は転覆するわ、シラウオは逃げてしまい捕れなくなってしまうわ、困り果ててしまう。これと並行して、大川に橋を架けたいという江戸庶民の願いがあって、花川戸の家主の伊右衛門がこの建設を悲願としているというのが、この噺の二本目の柱にある。

佃を拠点にしていたシラウオ一家の親分、シロチョウだけが子分を逃がして、何とか巨大アナゴに立ち向かおうとする。ひょんなことから魚屋のトト吉がシロチョウと巡り会い、“シロタロウ”と名付けて可愛がった。そのトト吉が伊右衛門のところに行くと、店賃が滞っている店子の平賀源内が発明したというエレキテルを見せてもらう。そして、これまたひょんなことから、このエレキテルの発生する電気ショックでシロタロウが突然変異を起こし巨大化、さらに人間となぜか喋れるようになる。ちなみに、シロタロウは侠客だから、背中にウミウシワカメの彫り物をしているというのが、後々の伏線になる。

シロタロウが「アナゴにも急所があり、そこを目打ちすれば退治できるのではないか」と発案する。巨大アナゴを横にして、橋脚を打ち込めば、大川に橋を架けることもできるのではないか。伊右衛門、平賀源内、トト吉含め、作戦を立てる。源内は土用の丑の日を発案したアイデアマン。「アナゴを食べて、元気になろう!」というキャッチコピーで、寄付を集め、大川橋建設の資金2600両が集まった。

だが、化けアナゴ対策本部兼大川橋建設委員会委員長の伊右衛門に対し、疑問が投げかけられた。あのニョロニョロと動いているアナゴを捕まえることができるのか?そこに「あっしのお任せくだせい」と名乗りをあげたのが、シロタロウだ。佃に戻れば、何十万、何百万というシラウオの子分がいる。そいつらを一同に集めて、化けアナゴに立ち向かうという。

シロタロウは佃に戻り、子分たちに事情を話す。そのときに親分だと信じてくれたのは背中のウミウシワカメの彫り物だった。果たして、シラウオの軍団は一塊となって、大川を上り、花川戸で寝ている化けアナゴと激突した。シラウオたちは一本の鎖となってアナゴに巻き付き、締め付け、身動きができないようにする。その先頭にいるのが親分、シロタロウだ。

化けアナゴとシロタロウが顔を合わせる。「その額に傷はアナゴロウ爺さんでは?…あっしはシロエモンの孫です」。化けアナゴとシロタロウの祖父は幼馴染で、大の仲良しだったのだ。

アナゴロウは幼い頃に二親と死に別れ、シラウオ一家に育てられた。だが、その風貌ゆえにシラウオたちからは疎まれ、仕方なく一家を出たのだった。だが、シロエモン爺さんは「アナゴだって同じ魚、仲間じゃないか」と言って死んでいった。だから、シロタロウの心の隅にそのことが引っ掛かっていたのだ。

「なぜ、両国橋に居座って、人間たちに迷惑をかけているのか」とシロタロウがアナゴロウに問うとこう答える。「花が見たいんだ。小さい頃、シロちゃんと向島で満開の桜を見たことが忘れられない。それから50年、羽田沖でひっそりと暮らしていた…」。シロタロウはアナゴロウの心中を察し、シラウオたちに力を緩めて鎖を解くように命じる。そして、アナゴロウを逃がしてやった。「向島は桜が満開だぞ」と見送った。

アナゴがいない大川に杭がズドーンと打ち込まれた。シロタロウがトト吉に「勘弁してやってください。同じ魚同士、殺せない」。すると、トト吉はそれを聞いて大川に飛び込んだ。トト吉は河童だったのだ。そして、大川橋は計画通りに見事に完成した。

奇想天外だが、しっかりと理屈が通っていて、面白い「大川橋由来」。流石、一之輔師匠と思わせる高座だった。

配信で渋谷らくご「談吉イリュージョン」を観ました。瀧川鯉八師匠が「新日本風土記」と「寝るまで踊らせて」を演じた後、立川談吉さんが新作落語「もりかつ」をネタおろしした。

談吉さんの「もりかつ」。駅前で薪を割るカワシマに声を掛けるヤマシタ。森活しないかと誘ったのだ。森で活動すること、すなわち森活。最近、仕事帰りのOLに人気だという。とりわけ人気なのは、ピラティス。森の静かな環境、澄んだ空気がピラティスに最適なのだ。

ヤマシタは是非、カワシマにお薦めしたい“森”があるという。ここなら、駅前の雑踏よりも格段に静かで、薪割りに没頭、集中できるはずだと薦める。森は塞ぎこんでいる人を笑顔にする力を持っているという。訝しげに思っていたカワシマも段々に心を開いて、その薦める森に案内してもらうことにした。

その森に着き、そこで薪を割ってみると、言われた通り、気持ちが良い。スコーン、スコーンと鉈で薪を割る音が森に響き、癒される。心なしか、割られた薪の表面も綺麗に見える。すっかり、カワシマはこの森が気に入ってしまった。

ところで、このヤマシタという男は何か企業とか団体に所属しているわけでもなく、個人で、しかも無償で「人に森を紹介する」活動をしているのだという。帰宅したヤマシタは飼い犬のペロに向かって、「これで40人の人に森を紹介した。次の目標は50人だ」と報告する。このヤマシタは一体?…というところで落語は終わる。まさに談吉イリュージョン、談吉さんの不思議な落語世界に誘われ、心地良かった。