歌舞伎「摂州合邦辻」、そして林家きく麿「パンチラ倶楽部」
秀山祭九月大歌舞伎の昼の部に行きました。「摂州合邦辻」と「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」の二演目。
「摂州合邦辻」は合邦庵室の場。合邦道心の一人娘お辻こと、高安左衛門に腰元として仕え、左衛門の後妻となった玉手御前の高安家の行く末を案じて、命を懸けて打った一芝居に泣けてくる。
左衛門が嫡子の俊徳丸に家督相続させることにしたのを不服に思う異母兄の次郎丸が御家横領を画策して、俊徳丸を亡き者にしようと企んでいた。これを丸く収めるために、玉手御前は浅香姫という許嫁がいる継子の俊徳丸に恋心を抱いている、つまりは道ならぬ恋、邪恋に走っているように見せかけた。俊徳丸に毒酒を飲ませ、面体が醜く崩れ、失明までさせてしまう。玉手御前にしか判らない、周囲の人間には全く見抜けない芝居である。
だから、俊徳丸は浅香姫を連れて出奔するし、合邦道心もこの二人を匿ってやる。後から訪ねてきた玉手御前に対して、合邦とその妻・おとくも自分の娘でありながら激怒し、俊徳丸を諦めるように説得する。
俊徳丸も自らの醜い姿を玉手御前に見せて、心変わりをさせようとするが、寧ろそれは浅香姫に愛想尽かしをさせて、自らの邪恋を成就させようと狙ったものだと打ち明ける玉手御前。これを見かねた合邦が覚悟を決めて、玉手を刀で突きさす。
ここで初めて玉手御前は本心を話す。俊徳丸と次郎丸は共に玉手にとっては継子という間柄。俊徳丸を救うために次郎丸の謀略を表沙汰にすれば、次郎丸が罰せられる。しかし、そのまま見過ごせば、俊徳丸の命が危うい。二人の命を救うには、俊徳丸を病に仕立てて家督を放棄させ、次郎丸の計略を阻止しようと考えた。そこで、俊徳丸に恋を仕掛け、毒酒を飲ませたのだ。
その上で、だ。俊徳丸の業病を本復させる方法があるという。寅の年、寅の月、寅の日、寅の刻に生れた女の肝の生き血を、毒酒を飲んだ鮑の盃で飲むこと。そして、玉手こそ、その寅が揃う生まれであり、自分の生き血を飲んでもらおうと考えていたというのだ。
その通りに、玉手は自分の生き血を俊徳丸に飲ませ、俊徳丸の病は瞬く間に治った。そして、玉手は皆が見守る中、静かに息を引き取る。高安家の後妻に入った女として、立派すぎる忠義心溢れる言動に心揺さぶられる思いがした。
夜は「黄色まじりの薄ピンク～林家きく麿独演会」に行きました。「おかま無筆」「パンチラ倶楽部」「身体戦隊シンタイジャー」の三席。
「おかま無筆」。アケミが姉さんと呼んでいるおかま仲間の高校時代エピソードがまず可笑しい。サッカー部のタケダ君のことが好きで、ユニホームを脱ぐ姿をジロジロ見ていたという。でも、タケダ君にはマネージャーのユミという彼女がいて、嫉妬していると、タケダ君は「お前、ユミのことが好きなのか！？」と勘違いされたという…。
アケミがその姉さんに相談があるという。先日、タイに行って“あそこを取る手術”をしたときに、現地の男の子と仲良くなり、彼氏になった。その彼氏、チンカラ・マックロケット君から手紙が来たが、タイ語で読めないので、読んでほしいというのだ。姉さんはタイに長期滞在経験があり、読めるはず…。ところが、「月のモノがきているから」とか、「便箋がハムスタークラブ」とか、「読むと早いわよ。デブがカレーライスを食べるくらい」とか言ってなかなか読まない。挙句には、“神聖なお祈り”を始めちゃう始末。ムエタイじゃない！サエジークラップは「こんにちは」、シャンティ・アケミは「私はアケミです」の２つの基礎知識だけで押し通す姉さんが面白かった。
「パンチラ俱楽部」。吉田さんの奥さんが「亭主が会社を辞めたらしい。しかも、家に帰ってこない」と妹に相談。本棚に赤いボタンを発見し、押してみたら、「月刊デルタ地帯」という雑誌が創刊号から揃っていた他、沢山のパンティが載っている書籍が出て来た…、「土曜夜7時、秘密喫茶でパンチラ倶楽部開催」のチラシを発見したという…。
この秘密集会の様子が実に愉しい。パンチラ七箇条。①パンチラは神が与えた宝なり②パンチラは咲いては散る儚き桜のごとし③見えそうで見えないものしがみつくことなかれ、無欲は最大の喜びを生む④色柄モノはネットに入れて洗うべし⑤悪魔のアイテムに手を染めるべからず、正しき光のもとにパンチラは集う⑥小豆相場、米相場と違い、パンチラ相場は不変なり⑦「見せてもいいよ」には気持ち悪い笑顔を浮かべて聞こえないふりをするべし。
定例報告も可笑しい。タケイさんは、モアイ像前、１０９のエスカレーター、道玄坂のファミレス、全て渋谷地区限定というこだわりが良い。さらにパンチラ唱歌。♬上目遣いはさりげなく 空を見上げてお宝掴めば 片首回して疲れたふりだ 口元ニヤリとゆるめるな～。
吉田さんが会社を辞めた理由は、女子社員の制服がミニスカートからキュロットスカートに変更になったこと。社長に詰め寄り、「こんな会社、こっちから願い下げだ！」と言って、退職したという…。パンチラにこだわって、ここまで面白く落語を構築するきく麿師匠、素晴らしい。
「身体戦隊シンタイジャー」はネタおろし。悪の組織、ホルエスタントと戦うために結成されたシンタイジャー。アタマ、オッパイ、ワキノシタ、オシリ、そしてアソコ。だが、アソコが2人いて、6人になってしまう。教官が「５人がいい。アソコは１人でいい」と言うが、「命が生まれる秘密の花園」の女のアソコさんと「ゴムでもないのに伸び縮みする」男のアソコくん、どっちにするか？困ってしまうという…。
仕方なく、男のアソコくんが「俺はチンコになるよ」と言うが、人数が減ったわけではない。ワキノシタくんのムダ毛の処理をやめさせて、メンバーから外すか？ほか色々と議論されるが…という、笑えてちょっとおバカな下ネタ落語の真骨頂。でも、今回限りかもしれない…。
