【大相撲秋場所】大の里が2回目の優勝、史上最速の大関昇進へ

大相撲秋場所は関脇・大の里が13勝2敗で2回目の優勝を飾るとともに、場所後の大関昇進を確実にした。初土俵から所要9場所での大関昇進は昭和以降では羽黒山、豊山、雅山の12場所を大きく塗り替えるスピード出世だ。

大の里の相撲が場所ごとに進化している。先々場所の初優勝では恵まれた体格を生かして右を差してガムシャラに前に出る勢いで掴んだ賜杯だった。先場所はその取り口を研究されて9勝に終わったが、今場所は右差しに加えて、立ち合いのもろ手突き、左のおっつけという型を身につけ、馬力だけでなく技能が光る相撲で連勝街道を突っ走った。

終盤戦に入ると少し固さが出たのか、12日目に若隆景の強靭な粘り腰に逆転で星を落とし、13日目も大関・琴櫻と土俵際が微妙な一番で物言いがつき、取り直しとなって、なんとか勝利を収めたあたりは「大の里も人の子」と思った。だが、14日目には冷静さを取り戻し、大関豊昇龍を一気の相撲で圧倒して優勝を決めた。

直近3場所の勝ち星が34勝となり、大関昇進の目安となる33勝を超えたが、それだけでなく他の追随を許さない圧倒的な強さ、巧さを見せつける立派な相撲内容であり、文句なしの大関昇進だ。さらに言えば大関はあくまでも通過点で、このまま一気に横綱昇進を狙える資質と実力を感じる大器である。来年の早い時期には照ノ富士による一横綱時代にピリオドを打って、これから先の角界を背負って立つ大黒柱になるに違いない。

それにしても、ふがいないのは二大関だ。琴櫻、豊昇龍ともに8勝7敗、何とか勝ち越したが、優勝争いに早い段階で全く絡めなかったのは残念だった。来場所以降の奮起を期待したい。

その代わりに優勝争いに絡んだのは、関脇の霧島と怪我から復帰して再入幕2場所目の若隆景だ。霧島は先場所、大関から陥落して二桁の勝ち星を挙げれば復帰できたのだが、8勝止まり。だが今場所は首の故障が癒えたのか、持ち前の前まわしを引いて頭をつける相撲が冴え、12勝を挙げた。これで再び大関復帰への起点を作った。若隆景は大の里戦に見せたような強靭な足腰を生かした相撲で、怪我で幕下に陥落する前の“最有力大関候補”といわれた頃を彷彿させる活躍を見せ、同じく12勝。殊勲賞を受賞した。番付編成会議次第だが、三役復帰も考えられ、再び大関獲りに名乗りをあげた。期待したい。

兄の若元春も前頭3枚目で11勝を挙げ、三役復帰が濃厚だ。是非、大関獲りレースに加えたい。王鵬が自己最高位の前頭2枚目で9勝を挙げた。二大関を破っての好成績、今後の活躍の期待大だ。同じく宇良も二大関撃破して、9勝を挙げて土俵を沸かした。相手をかき回すのではなく、二大関に対しては下から低く当たって、そのまま土俵を割らせる正攻法の相撲が功を奏した。大関二人がふがいなかったので、王鵬も宇良も殊勲賞は貰えなかったが、高く評価できる活躍だと思う。

最後まで優勝争いに絡んだという意味では、錦木が11勝で敢闘賞を受賞。実に8年ぶりの二桁勝利だそうだ。また高安が休場明けの場所で10勝を挙げたことも記憶にとどめたい。また、正代に復調の兆しが見えたのは嬉しい。前頭4枚目で10勝。来場所も幕内上位で土俵を面白くしてくれることを期待したい。

ベテランの玉鷲が通算連続出場回数の記録を実に38年ぶりに塗り替えた。青葉城が昭和61年名古屋場所までに達成した1630回を抜いたのだ。玉鷲は現在、39歳。今場所は惜しくも7勝8敗と負け越したが、いつまでこの記録を続けられるのか。普段のたゆまぬ鍛錬で、怪我もせずに幕内の番付を守り続ける“鉄人”の称号に惜しみない拍手を贈りたい。

惜しみない拍手と言えば、今場所限りで引退し、年寄湊川を襲名した貴景勝にも贈りたい。今場所二桁勝利を収めれば、大関復帰も考えられたし、まだ28歳という若さだが、ここ1年ほどは首の故障などとの闘いでもあった。気力、体力ともに限界だったのだろう。身長175センチという決して大きな身体ではないにもかかわらず、大関在位30場所、優勝4回は立派な成績だ。大関の優勝回数としては魁皇の5回に次ぐ2位。突き押しの相撲でここまでやってきた精神力は並々ならぬものがあったと思う。お疲れ様でした。

そして、38代木村庄之助が今場所限りで定年退職した。2020年の脳梗塞から、リハビリを経ての復帰は大変なご苦労があったと思う。行司道50年の中で一番の思い出は2021年名古屋場所の結びの一番だそうだ。白鵬と照ノ富士との対戦。白鵬が勝って全勝で45回の優勝を決めて、これが最後の優勝となった。また、照ノ富士は翌場所に横綱昇進を決めている。お疲れ様でした。

十両は尊富士が13勝2敗で2度目の優勝をした。今年初場所に十両優勝して新入幕、春場所には130年ぶりとなる新入幕優勝を果たすも、怪我で夏場所は全休して十両に陥落、名古屋場所も2日間だけ出場して2勝を挙げた。果たして今場所はどうなのか?と注目されたが、新入幕優勝のときを彷彿させる出足良く前へ出る相撲を連日展開した。再入幕できるか微妙なところだが、早く尊富士が大の里のライバル的存在として活躍する土俵を見たいものだ。

さあ、一年納めの九州場所。今場所のように大の里を中心とした優勝争いが繰り広げられるのか。主軸の大の里に対し、対抗馬として誰が抜きんでるのか。横綱・照ノ富士の怪我の状態や琴櫻と豊昇龍の二大関の奮起も気になるが、関脇以下の有望力士の活躍も楽しみである。大相撲はますます面白い。