落語協会百年特別興行 怖い噺 三遊亭わん丈「双蝶々 権九郎殺し」

新宿末廣亭八月上席六日目夜の部に行きました。今席は落語協会百年特別興行、夜の部は「怖い噺」と題して、日替わり主任がネタ出しで臨む。きょうは三遊亭わん丈師匠が「双蝶々 権九郎殺し」を勤めた。

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わん丈師匠の「双蝶々 権九郎殺し」。黒米問屋の山崎屋に奉公に出された長吉は利発で、よく気が利いて、算盤も達者な優秀な人材と周囲からは思われていた。だが、番頭の権九郎は「一癖ありそうだ」と睨んでいたところは流石だ。湯屋からの帰りが遅いのが気になって、後をつけてみると案の定、長吉は高徳寺前で長五郎と組んで盗みを働いていた。芝居見物帰りの女性二人を襲って、簪をスッと抜く現場を目撃したのだ。

権九郎は店に戻って、長吉の仕着せ文庫を検めると、身分不相応な煙草入れ、紙入れ、印籠、櫛、笄…が出てくる。帰ってきた長吉に質すと、「持ち物道楽。小遣いで買った」と白を切る。権九郎が高徳寺で盗みの現場を見たと迫ると、「父親が寝たきりになり、母親が物乞いに出ている」と泣き落としを図る。権九郎はこのことは胸にしまっておいて、旦那には告げないと許すが、「言わぬが、ちょっとお前に頼みがある」と言う。

実は長吉同様、権九郎も根は悪党だった。だから、以前から利発な長吉を怪しいと睨んでいたということか。半蔵松葉の吾妻花魁を若旦那と競い合っている、このままでは若旦那に身請けされてしまう、何とか自分が請け出したい。そのためには50両が必要だ。旦那と女将さんの寝間の奥の箪笥の二番目の抽斗に50両が入っている。それをお前の知恵で盗めという指令だ。長吉は承知する。

夜中、腹痛をおこしたふりをして、女将さんから箪笥の鍵を預かり、薬を出すと同時に50両を懐に入れる。ここで長吉の本音が出る。「まんまと50両をせしめたが、そのまま渡してしまうのは惜しい。いっそのこと権九郎を殺して奥州にでも逃げてしまおうか」。細く長く生きるよりも、太く短く生きたいと考える長吉はどこまでも悪党だ。

この企みをうっかり定吉に知られてしまった。掛け守りを買ってやるから内緒にしてくれと粉を撒き、「寸法を測ってやろう」と定吉の首に手拭いを掛けるが、そのまま首を絞めて殺してしまう場面、思わず息を飲んだ。丁度、弁天山で九ツの鐘が鳴る。権九郎との待ち合わせ場所、六郷様の塀外へ。

権九郎が長吉に「首尾は?」「見事、50両を持ち出し、こちらにございます」。受け取ろうとする権九郎に対し、長吉は「いえ、お前さんには渡せません。まだ、お店には大層金子がありました。そんなに欲しければ自分で盗ればいい」。「力ずくでも取ってみせる」という権九郎に、「とんだ時代の台詞ですな」「とってごろうじ」「とらいでか」。抵抗する長吉に権九郎は「話をしよう…」と隙を作り、長吉を摑まえると「柔の覚えがある。こっちのものや」。だが、長吉を懐に忍ばせていた匕首で権九郎を刺す。「刺しおったな!人殺し!」。構わず、さらに長吉は刺し、権九郎の息の根を止める。「手間を取らせやがって。こうしちゃいられねえ」。こう言って、長吉は奥州に向かって逃げるのだった。

これでもか!というくらいに悪党ぶりをみせる長吉に魅了された高座だった。