立川談春独演会「景清」「妲己のお百」
立川談春独演会に行きました。芸歴40周年記念シリーズの第14回。「景清」と「妲己のお百」の二席だった。
「景清」。盲目になってしまった定次郎が赤坂円通寺の日朝様を三七二十一日お参りしたが願いは叶わなかったと聞いて、目の神様仏様は他にもある、上野の清水様にとりあえず百日お参りしてみなさいと励ます石田の旦那の台詞が良い。「お前さんは木彫り職人として名人になる人だと思っている。生涯でこれという彫り物を彫ってみたいと思わないのか」。
だから、願掛けが叶って目が明いたとき、すぐに部屋に籠って一晩かけて観音様を彫り上げた。それを持って、清水様に御礼参りする途中、石田の旦那の家に寄る。わざと杖を持っていき、雷が怖いと定次郎を置いて逃げてしまった旦那に目が明いたことを報告して驚かせてやろうという…。そのときの旦那の喜びようが良い。自分の息子のことのよう。しかも彫り上がった観音様の出来が素晴らしく、尚のこと喜んでいるのが嬉しい。
それと、定次郎のことを思いやる母親の情愛が素敵だ。百日目のお参りのときに、「この着物は縞物だよ、それが判るんだね」と縫い上げた着物を着せてやる。毎日のお賽銭も、定次郎が盲目になってからは稼げなくなったから、全部母親の財布から出してあげた。そのことを思うと、定次郎は最初に願掛けが叶わないと思ったときに、「せめて無理だと早めに言ってくれてもいいじゃないか!おふくろに対して面目ない。この詐欺師!泥棒観音!」と観音様に罰当たりな言葉を吐くのも仕方ないのではないかと思った。
「妲己のお百」。美濃屋の小さんは深川の売れっ子芸者。芸は売るが、色は売らないという気性は、お百という名前で毒婦として暗躍していることを考えたら、まだまだ序の口であろう。
門付けしている母娘の唄を聞いて気に入り、家の中に入れると、母親の方は20年ほど前に端唄で名を馳せた太田家峰吉の成れの果てだった。春日部の大黒屋卯兵衛に惚れられて妻となったが、卯兵衛はもっぱらの遊び人で散財し、店を潰してしまった。峰吉は娘およしを連れて江戸の木賃宿を転々とし、貧乏から盲目になってしまった。小さんは「二階が空いているから、住まうがいい」と親切にする。峰吉の眼も麹町の知り合いの眼医者に診せると、「これは治る」と言う。峰吉は麹町で出養生をすることになり、およし一人が小さん宅に二階に住むことに。
そこへ春日部から大黒屋の分家だという甚吉という男が訪ねる。「卯兵衛が死んだ。借金が残っている。100両を返して貰いたい」と言う。金がないなら、およしをカタにするという証文も持っているという。峰吉は吉原の三浦屋におよしを売り、200両という金を手にしたが、すっかりどんちゃん騒ぎで使ってしまった。
峰吉が戻って来た。「およしの顔が見たい」という。困った小さんは「得意先の蔵前の札差しの一人娘が一緒に芸事を習う娘を探していたので、そこへ行かせた」と誤魔化す。峰吉はおよしに会いたくて仕方なく、蔵前に行くと言い出すから、「先方に迷惑になるからやめてくれ」と言って、その代わりに蔵前に手紙を出すからと説得した。だが、そんな約束を守るわけがない。毎日のように、峰吉は「およしはまだ帰りませんか」と二階から小さんに尋ねて泣き続け、面倒になってきた。その上、ろくに飯も食わせてやらないから、治る眼も悪い方に傾き、全く見えなくなってしまった。
ある日、小さんの亭主の重兵衛(実は大泥棒)の子分の重吉が小さんを訪ねてきた。自分の女房を高崎の女郎屋に売ってしまったので、身請けする金5両を都合してくれないかと頼む。小さんはここで思い付く。「二階にいる婆さん(峰吉)をばらしてくれれば、10両渡すよ」。化けて出るかもしれないが、女房も身請けしたい。重吉は引き受けた。
およしは蔵前のお嬢さんと一緒に綾瀬の寮に移ったので、そこへ連れて行ってやると峰吉に伝え、重吉とともに家を出る。だが、吉原の三浦屋で働くおよしが綾瀬にいるわけがない。途中の土手で、重吉は盲目の峰吉の背後から手拭いで首を絞める。「恨むなら、金を恨め。小さん、あんな悪い女はいない。およしは三浦屋に売られたんだ。悪い夢を見たと思って諦めてくれ。恨むなら、小さんを恨め」。そう言って、峰吉に馬乗りになり、重吉は匕首で胸を刺す。「およしやーい」と叫ぶ峰吉。重吉は峰吉の死骸を隅田川に投げこんだ。
それでも「重吉!」と呼ぶ声がする。人魂が吉原の方角へ飛んでいく。重吉は駕籠に乗って、深川に行ってくれと頼むが、蔵前に着いたり、千住に着いたり。駕籠屋もこんな不思議なことはない、気味が悪いと言い出す。さらに、駕籠屋の前に婆さんが現れ…「迷ったな、重吉!」。はて恐ろしき執念じゃなあ。
久々に聴いた「妲己のお百」、鳴り物が入り、照明も落とす演出で、怪談噺としての魅力満点であった。