【大相撲名古屋場所】横綱 照ノ富士が10回目の優勝

大相撲名古屋場所は千秋楽で横綱の照ノ富士と平幕の隆の勝が12勝3敗で並んで優勝決定戦に持ち込まれ、照ノ富士が隆の勝を寄り切りで破って、10回目の優勝を決めた。

春場所、夏場所と途中休場し、膝や腰の不安から今場所も出場が危ぶまれた照ノ富士だったが、いざ蓋を開けてみると、6日目からは星2つの差をつけて優勝争いの単独トップを走り続けた。早くも13日目にも優勝が決まるのではという強さで、一人横綱の威厳を見せつけていた。だが、14日目に隆の勝に金星を許し、千秋楽にも大関の琴櫻に敗れるというまさかの展開。だから、相撲は取ってみないとわからない。

しかしながら最後は優勝決定戦で隆の勝にもろ差しを許して攻め込まれるも、巻き替えて右を差して逆転勝利を収め、以前から目標に掲げていた10回の優勝を達成するとともに、名古屋場所での初めての優勝を決めた。最終的には、これまでの優勝争いの経験値がものを言う貫禄の賜杯だったのではないか。

それにしても、前頭6枚目の隆の勝が愛知県体育館での開催は最後となる名古屋場所を盛り上げた功績は大きい。初日から2連敗でスタートするも、中日からは8連勝。特に14日目に照ノ富士戦に敗れれば相手の優勝が決まってしまうという一番で、持ち前の前に出る相撲で横綱を一気に寄り切った土俵は圧巻だった。そして、千秋楽も先場所優勝の実力者、関脇の大の里を前日同様の速攻相撲で下し、照ノ富士に精神的プレッシャーを与えたことが琴櫻に敗れる要因を作ったことは間違いない。最後の最後まで賜杯の行方がわからない、そんなドキドキ感を相撲ファンに味わわせてくれた。敢闘賞だけでなく、優勝が条件だった殊勲賞も受賞させてあげて良かったのではないか。

新小結の平戸海の活躍も光っていた。横綱大関に対しては貴景勝を破ったのみだが、連日正攻法の小気味良い相撲を見せて、二桁勝利を収めての技能賞は納得の受賞だ。今後の大関争いに新しく加わる力士が現れたという期待を抱いた。

大関争いということで言えば、先場所12勝で優勝した大の里は今場所の成績次第ではすぐにでも大関という期待に反して、序盤から振るわず、9勝にとどまったのは残念だった。照ノ富士の連勝を止めたことが評価されて殊勲賞を受賞したが、対戦相手に右差しでガムシャラに攻める取り口を研究されている印象を持った。パワーで押す相撲にさらなる磨きをかけて、大関獲りに再挑戦してほしい。

大関陣に物足りなさを感じた。琴櫻は結果的に10勝を挙げたが、ここぞという一番に脆さを感じる。照ノ富士に続く優勝争いに加わっておきながら、11日目から霧島、豊昇龍、阿炎に三連敗してしまったのはその脆さの顕われだろう。豊昇龍は13日目から休場した。琴櫻を首投げで倒した際に股関節を痛めたことが原因だ。足腰の良さは誰もが認めるところだが、運動神経に頼った相撲ばかりを取っているとこういうことになる。受ける相撲を減らして、自分から前へ出て攻める取り口が今後は求められると思う。

カド番だった貴景勝は5勝10敗と大きく負け越し、来場所は関脇へ陥落する。首の痛みなど満身創痍の相撲が見ていて伝わってくるが、まだ27歳という若さである。大関復帰を目指して奮起してほしい。大関から関脇に陥落した霧島は今場所に10勝すれば大関復帰であったが、ようやく千秋楽に勝ち越しという成績で叶わなかった。貴景勝同様、これで諦めずに新規巻き直しを期待したい。

再入幕した若隆景が11勝を挙げたことは嬉しい。怪我で幕下まで陥落したが、2022年秋場所に関脇で11勝したとき以来の幕内での二桁勝利である。来場所は幕内上位に番付をあげるだろう。優勝経験もあり、大関候補と期待されていた逸材である。今後の活躍が大いに期待できる。

十両は白熊が12勝3敗で優勝した。来場所は幕内昇進が濃厚だ。また、西十両筆頭の阿武剋が9勝を挙げ、やはり新入幕すると思われる。十両2場所での昇進だ。この白熊や阿武剋が新しい風を幕内の土俵に吹かせると、さらに相撲は面白くなるだろう。

先々場所に新入幕優勝した尊富士は怪我のために先場所は全休し、十両に陥落。今場所も初日から休場したが、中日と九日目のみ出場して勝ち星を挙げ、来場所の幕下陥落は何とか踏みとどまりそうだ。同じく怪我で幕下に陥落した伯桜鵬も先々場所から十両に復帰し、今場所は11勝を挙げた。幕内最高優勝を争った実力者たちが怪我を克服して再び幕内の土俵を沸かす日を楽しみにしている。

さあ、9月秋場所はどんな土俵が展開するのか。早くも待ち遠しくなってきた。