だいえい・鯉花二人会 春風亭だいえい「位牌屋」、そして柳家喬太郎「錦の舞衣 其の弐 宮脇数馬」
春風亭だいえい・神田鯉花二人会に行きました。だいえいさんが「辰巳の辻占」と「位牌屋」、鯉花さんが「番町皿屋敷」と「山内一豊 出世の馬揃え」だった。
鯉花さんの「番町皿屋敷」。主人の殿様、青山主膳に手籠めにされそうになったお菊は何とか逃れて、自害しようとしているところを家来の相川忠太夫が止める。優しく諭す忠太夫だったが、実は彼も下心があって、二人で屋敷を抜け出し夫婦となって逐電しようと持ち掛ける。だが、忠太夫は家中きっての醜男。お菊が断ると、忠太夫は豹変し敵意を持つようになる…。
青山主膳と相川忠太夫が結託して、葵の皿10枚のうちの1枚を抜いて、その管理を任されているお菊を責め苛むのだ。散々に苛め抜いた後、お菊は斬り殺され、古井戸の中で沈められる…。この怨念を晴らそうとお菊の幽霊が忠太夫の家に現れ、皿の数を数える声が奥の座敷から聞こえる。その怖ろしさから忠太夫は自害に追い込まれ、また主人の青山主膳も狂い死にしたという。
お菊が幽霊となって出る後半よりも、美人の誉れ高いお菊を自分のものにしようした青山主膳、相川忠太夫が揃って袖にされたことを恨みに思い、お菊をなぶり殺しにすることに恐怖を感じた。人間の業欲の恐ろしさというのだろうか。
だいえいさんの「位牌屋」。演じ手が少ない珍しいネタだ。吝の噺の中でも一番強烈ではないだろうか。主人公の吝兵衛さんがやっていることは、倹約というより泥棒である。
芋屋さんに「お住まいは?」「買い出しはどちらで?」「ご家内は何人暮らしで?」「お昼のお弁当はどちらで遣っている?」等と訊いて、天秤棒の荷にある芋を一本手にして、「良い形の芋だ。昔、琉球から薩摩に献上された芋はこんな芋だったんだろう。うちの床の間の置物にしたいから一本おくれ…商売は損して得取れといいますよ」。これを三遍繰り返し、呆れた芋屋は怒って帰ってしまう。結果、三本の芋と煙草をどっさりとくすねるという…。
この様子を見習った小僧の定吉は主人に位牌屋に行って出来上がった位牌を受け取るというお遣いを頼まれたが、その位牌屋さんで主人が芋屋さんにしたように質問をして、煙草をどっさりくすねた上で、注文していない出来損ないの位牌まで貰ってくるという…。猿真似で失敗という落語は沢山あるが、この噺は失敗しないで余計な位牌まで貰う。その位牌を見て、吝兵衛さんが「この位牌は何に使うんだ?」「へい、お生まれになった赤ん坊のお位牌に」。ブラックなサゲが何とも可笑しくて良いなあ。
配信で文春落語・柳家喬太郎「錦の舞衣」連続口演の第2回「宮脇数馬」を観ました。
夫婦となった狩野鞠信と坂東須賀だったが、お互いの芸の精進のために別居している。鞠信は越前守から谷中の南泉寺の欄間に絵を描いてほしいと依頼を受け、泊まり込みで描いている。そこに二十四、五の若侍が「先生!お初にお目にかかります」と訪ねてくる。鞠信が大坂で修業した時代に世話になった宮脇志摩の息子で数馬という男だ。
大塩平八郎が謀反を起こし、その親族も詮議を受け、父の宮脇志摩は切腹したという。そして、数馬も追われる身となって、江戸深川にいる母と芸者をしている妹の小菊の許に父の遺言の書かれた手紙を届けに来た。父は困ったことがあったら、鞠信先生を頼るといいと言っていたので訪ねたのだ。隠密がどこにいるか判らない。鞠信は根津清水の自宅に身を隠すよう言い、数馬は小菊が用意した女物の着物に着替え、芸者姿で南泉寺を去った。
続けざまに須賀が鞠信を訪ねる。二ヶ月ぶりである。手紙を何本書いても返事をくれない鞠信に対し、ご機嫌斜めだ。でも、欄間の絵を見て、「これは良い出来だ。今度こそ狩野鞠信の名前が入れられるのでは」と褒め、鞠信もそのように思っていると返した。すると、須賀は深川の小菊という芸者の扇子に絵を描いてあげたという噂を聞いたとやっかむ。鞠信は平仮名で「まりのふ」と書いただけだと説明するが、須賀の悋気は収まらない。ここに来るときに芸者とすれ違った、もしや小菊がここに来ているのでは?と妬く。須賀はこれから根岸の安達屋の座敷があるので行くが、それが終わったら、清水のお家に行ってもいいですか?と訊くが、鞠信は数馬のことがあるから、「駄目だ。行ってはならん」と返す。
須賀が去ると、今度は同心の石子伴作が訪れる。鞠信に対し、宮脇数馬が隠れているのではないか、匿うとためにならないと脅す。探しても良いか?と寺の中を詮索し、戸棚から風呂敷包みが出てきた。風呂敷は菊が一輪染め抜いてある、小菊のもの。しかも、男物の着物と菊が描かれて「まりのふ」と署名された扇子が包んであった。小菊は宮脇数馬の妹、縁があるのでは?と問い詰められ、鞠信は「知らん」と答えるしかなかった。
根岸の安達屋の座敷では、与力の金谷藤太郎と同心の石子伴作、それに須賀がいる。金谷が酌をするように須賀に言うと、「私は踊りの座敷に来ている。酌は私の仕事ではない」と拒否する。金谷は「お前も気の毒だな」と言う。売れない貧乏絵描きと所帯を持って、苦労しているのだろうと言うと、須賀は鞠信はどんなに金を積まれても嫌な仕事はしない主義なんだと返す。
金谷は「名人気質なんだな」と馬鹿にした笑いをして、「亭主は女房の目を盗んで寺でよろしくやっている」と言う。そして、南泉寺の本堂の戸棚から見つかった扇子を見せる。「芸者に描いてやったものだろう。小菊という女が忍んで来ていた証拠だ」と言われ、須賀はその扇子を預かることにした。
須賀は川口町の自宅ではなく、根津清水の鞠信のいる家に行く。「先生!…いらっしゃるんじゃないですか。小菊といい仲なんでしょ。証拠があるのよ」「その扇子は…なぜお前が…」。鞠信は「理由は今は話せない。話せるときが来たら話す」と言うが、須賀は承知しない。「離縁だ!」と声を荒げる鞠信。この様子に隠れていた宮脇数馬は居ても立っても居られない。二人の前に姿を現し、御高祖頭巾を取ると、芸者姿の正体は男…。数馬は須賀に鞠信の潔白を証明するため、すべての事情を話す。
そこに石子伴作らが詮議に訪れる。「ここに宮脇数馬を匿っているな!家探しさせてもらう」。すると、女部屋から腹を切って、喉に刀を刺し、血まみれになって果てた芸者姿の男が。宮脇数馬である。鞠信は「わしは知らん」を貫くが、石子は「話をじっくり伺いましょう」。鞠信は「須賀、後の事はよろしく頼む」と言って、石子に連行されて行った。