新宿末廣亭七月中席 古今亭駒治「小鳥ちゃん」

新宿末廣亭七月中席六日目夜の部に行きました。今席は古今亭駒治師匠が主任で、「駒治新作落語十夜 サマーブリーズ」と題したネタ出し興行だ。①上京物語②さよならヤンキー③ロックウィズユー④都電物語⑤鶯の鳴く町⑥小鳥ちゃん⑦公園のひかり号⑧首都高怒りの脱出⑨夏⑩海芝浦。きょうは「小鳥ちゃん」、初めて聴く噺だった。

「子ほめ」春風亭らいち/「初天神」古今亭始/粋曲 柳家小春/「おすわどん」柳家小八/「袈裟御前」林家たけ平/紙切り 林家八楽/「親子酒」入船亭扇好/「万両婿」宝井琴調/奇術 松旭斎美智・美登/「廿四孝」柳亭市馬/中入り/「冷蔵庫の光」弁財亭和泉/漫才 風藤松原/「水族館」古今亭志ん五/「熱血!怪談部」林家彦いち/太神楽 鏡味仙志郎・仙成/「小鳥ちゃん」古今亭駒治

駒治師匠の「小鳥ちゃん」。青春時代に夢中になったアイドルが何十年も経ってから犯罪をおこしてしまったら‥自分はそのアイドルに幻滅するだろうか。いや、何かの間違いであってほしい、信じたくないという気持ちが強いのではないか。そして、その真実を受け止めて、応援したいという気持ちになるのではないか。この噺を聴いて、そんなことを思った。

トモヒロ(48歳)は中学時代に追っかけをしていたアイドル、谷川小鳥が婚活アプリで100万円を騙し取る詐欺を働いたというニュースに触れて、ショックを受ける。小鳥ちゃんを自分よりも熱烈に応援していた友達のシゲタはどうしているだろうと、シゲタの実家を訪ねる。

すると、シゲタは「奇跡が起きたんだ」と言っている。ある婚活アプリに登録したら、何人もの女性に断られたが、ついに“運命の人”に出会えた。そして実際に会ってみたら、その女性は小鳥ちゃんだった。自分は気づかないふりをしたが、まるで夢心地で、気づいたら相手に100万円を渡していたという…。谷川小鳥の結婚詐欺の被害者はシゲタだったのだ!

トモヒロが騙されたんだよと言っても、シゲタはそうではないと言う。中2のときに行った神宮球場でのライブで、小鳥ちゃんは歌いながら自分に手を振ってくれたのに、何もできなかった。その罪滅ぼしだという。彼女の裁判で弁護するために、今から勉強して弁護士になりたいくらいだという。

母親の通報で、小鳥ちゃんの詐欺が発覚したのに、容疑者に何か言いたいことはないか?と訊かれたシゲタは一言、「サインください」。一緒に追っかけをしていたトモヒロは小鳥ちゃんに関するグッズを全て処分していることに対し、シゲタは“裏切り”だという。シゲタの部屋には小鳥ちゃんグッズが詰まっている段ボール箱が何箱も置かれている。

何冊もの写真集はもちろん、小鳥ちゃんの「起きて!ピヨピヨ」という声が鳴る目覚まし時計、CDシングル♬小鳥飛行中は今でも空で唄うことができる。そして、神宮球場ライブのときに空気を詰めたビニール袋も。もちろん、しぼんでしまっては、自分で吹き込んで膨らませているのだけれど。ラジカセを取り出し、♬小鳥飛行中を流して、トモヒロと一緒に懐かしむ。「この歌声に励まされたんだよ」。

だから、シゲタは「騙されていると判っていたんだ。だけど、信じたくなかった。今でも小鳥ちゃんのことが嫌いになれないんだ」。恋は盲目というけれど、青春時代に恋い焦がれたアイドルのことはいつまでも好きでいたいと思う気持ち、わかるような気がする。自分の青春時代を否定したくないという…。

小鳥ちゃんが自分から騙し取った100万円が戻ってきたら、それを資金にして小鳥ちゃんのライブを開催しよう!とシゲタは誓う。それが自分の気持ちを整理することなのかもしれない。自分を励ましてくれた小鳥ちゃんを今度は励ます番だ!という台詞に胸がキュンとした。