立川談春独演会「品川心中」通し、そして立川寸志 本気の昇進カウントダウン「妾馬」

立川談春独演会に行きました。芸歴40周年記念の20回シリーズの第13回。きょうは「天災」「小猿七之助」「品川心中」の三席だった。

「小猿七之助」。歌舞伎では河竹黙阿弥作「網模様燈籠菊桐」。講談では六代目神田伯龍先生が得意としていたネタを、立川談志師匠が落語に移植し、これを談春師匠が受け継いでいる。

ご法度とされている“一人船頭一人芸者”を敢えて望んだのは、七之助に岡惚れしている浅草広小路の滝野屋の芸者・お滝だ。永代橋から身投げした男を七之助が助けると、新川新堀の酒屋の鹿島屋の手代で名を幸吉だという。店の遣いで懐にあった30両を、ついつい腰掛け博奕に手を出してしまい、すっからかんにしてしまった。しかも、それはイカサマ博奕だったという…。

イカサマをした男の処と名前は判っているという幸吉に、「よし、俺が取り返してやる」と七之助が訊くと返ってきた台詞が「深川相川町で網打ちの七蔵」。表情を変えないようにする七之助だったが、その名前は自分の親父だった…。一旦は幸吉に味方しようと思ったが、その事実を知ると七之助は父親を擁護しないわけにはいかない。

助けた幸吉をもう一度川に突き落とし、亡き者にしてしまう。いくら悪党とはいえ、自分の親父への情愛は消えることがないものなのか。それが血というものなのか。この様子を見ていたお滝のことも亡き者にしなくては…、匕首を持ってお滝に襲い掛かろうとする七之助。だが、お滝は岡惚れしている七之助に対し、必死に口説きにかかる。なぜ、私が一人船頭一人芸者というご法度を侵してまで一緒に船に乗っているのか…。そして、その思いは七之助に通じ、お滝の命が助かったばかりか、二人は深い仲になった…。

談志師匠が大切にしたこの噺の“美学”を、談春師匠が鳴り物入りと芝居台詞で魅せてくれた。うっとりするような高座だった。

「品川心中」通し。久しぶりに通しを聴けて、嬉しかった。どう考えても失礼極まりないお染に対し、金造が親分と弟分の留吉と三人で仕返しをするところに、この噺の妙味がある。

青白い顔をした金造が「お染はいるか?」と城木屋を訪ね、一瞬ビックリしたお染だが、対応すると…。金造は芸者を呼ぶような陽気な気分じゃない、酒はいらないから水が飲みたい、白い団子が食べたい、心持ちが良くないから横になりたいと言って、案内された部屋の布団に入る。

頃合いを見計らった親分と留吉が城木屋を訪ね、今朝網にどざえもんが引っ掛かり、よく見たら金造だった、へそにお染から貰った起請文が結んであったので、お染さんにも線香の1本でもあげてもらいたいと言う。何をからかっているんだとお染は相手にしないが、しつこいので、「金さんはこの部屋で寝ているよ!」。だが、布団から出てきたのは金造の戒名が書かれた位牌…。

怖がるお染に対し、親分が昨夜の事情を訊くと、「お前は取り殺される。それが嫌だったら、頭を丸めろ。その黒髪を墓前に供えてお経を唱えれば金造も浮かばれるだろう」と言う。そして、お染は尼さんになったところで、「金造!出て来い!」。騙されたと判ったお染をギャフンと言わせるところに、この「品川心中」の身上があると思う。

夜は清澄白河に移動して、「立川寸志、通算1000名様のお認めで、真打になります。深川の巻」に行きました。「死神」と「妾馬」の二席。開口一番は立川談声さんで「初天神」だった。

<本気の昇進カウントダウン>シリーズの第2回だ。第1回九段下の巻で認定証投票数が26票、1000人のお認めまであと974票という状態で迎えた、きょうの深川の巻。結果から言うと、今回147票のお客様からの認定があり、残り827票となった。寸志さんによれば、再来年昇進を目標に頑張るとのことだ。

「死神」。死神が男に病人の足元にいる死神をどかす呪文を教えたのは、他の死神仲間を蹴落として、ポイントを稼ぎ、疫病神に昇進したいと考えたからだというのが面白い。何でも、死神というのは人を殺す神様ではなく、人の死を見届ける神様であって、その見届けポイントが一定の数貯まると疫病神に出世できるのだという…。

だが、男が千両という金に目が眩んで、枕元にいる死神を消してしまった。よりによって、その死神は死神協会の筆頭理事だったという。そのために、男に呪文を教えた死神のポイントは失効となり、そればかりか非正規雇用に降格してしまったというのが可笑しかった。

「妾馬」。八五郎が殿様の御前で酒と馳走を振舞ってもらい、ヘベレケになってからが面白い。うちのおつる、いい奴でしょ?あっしには似てないかもしれないけど、肚の中は似ているんだ。表裏がないところ。可愛がってやってください。ニワトリを産んだからお終いじゃなくて、生涯可愛がってやってください。良い店見つけちゃったなあ。

そこにいるの、おつるか!あんちゃん!って言えばいいのに、バーカ!兄妹のバカは「かわいい」という意味のバカなの。綺麗になったな。お前は昔から器量が良かった。同じ年頃の娘が良いナリしているのを見て、おつるにも着せてやりたいと思っていた。辛い思いさせたね。良いナリをさせたいとずっと思っていたよ。この世で一番思っていた。それが今、ここで良いナリをさせて貰っている。殿様のお陰だね。ありがとうという気持ちは思っているだけじゃ駄目だ。口にしなきゃ。おめでとう。皆から大事にされているようで良かった。

お願いがあるんだ。ちょっとでいい。赤ん坊の顔を拝ませてくれないか。出てくるとき、おふくろがめそめそ泣いていた。初孫の顔も見られない。身分の違いは悲しいって。だから、俺がジーッと拝んで目に焼き付けてくるから、その目を見ろって言ったんだ。アンちゃんなんか、どうでもいい。おふくろをここに呼んでやってくれないか。孫の顔を見ないうちには死ねないって言っている。思い残すことなく、あの世に逝かせたいじゃないか。遠くからでいい。見せてやってくれ。

そして、殿様にお願いする。「殿様、無理言ってすみません。この通りです。おつる、お前からもお願いしろ」。すると、殿様は「あい分かった。良き兄であるよのう」。がさつだが、妹思いで、母親思いの八五郎が素敵に見えた。