三三と若手、そして神保町かるた亭 春風亭昇也「やかんなめ」一龍斎貞鏡「宗悦殺し」
らくごカフェの「三三と若手」に行きました。柳家三三師匠が「磯の鮑」、立川らく兵師匠が「親子酒」、柳家緑太さんが「寝床」だった。
今年5月に真打昇進したらく兵師匠の「親子酒」。酒乱で志らく師匠をしくじり、破門になった経験を持つが、酒がたまらなく好きな父親をよく表現できていた。息子と禁酒の約束をしたが、5日目にしてギブアップ、禁断症状が出て女房に「一合だけ」と頼み込み、出てきた酒を嬉しそうに飲むところ。そして、一合が「寝た子を起こした」となり、次々と「あと一合」と拝み倒し、挙句には「ババア!持ってこい!」とベロベロに…。肴の塩辛とウニとザーサイ、それにカモフラージュの羊羹をぐちゃぐちゃにかき混ぜちゃうのが、やたらと可笑しかった。
三三師匠の「磯の鮑」。与太郎に“女郎買いで儲かる方法”があるが師匠に入門して厳しい稽古をしなければならないとからかう熊五郎の悪戯心。「熊さんは洒落がきついな」と言いながら対応する鶴本勝太郎“師匠”の伝授が愉しい。その秘伝を生飲み込みして吉原へ走る与太郎の「女郎買いに賭ける覚悟と情熱」の面白さが身上の落語だよね。
夜は「神保町かるた亭」に行きました。春風亭昇也師匠が「やかんなめ」、ゲストの一龍斎貞鏡先生が「真景累ヶ淵 宗悦殺し」だった。
昇也師匠の「やかんなめ」。女将さんがご隠居を訪ねるお伴をするのはお清と定吉。お清が「万が一のこと」を考え、手土産の最中と一緒に女将さんの癪の合い薬のやかんを風呂敷に包んだのに、定吉が気をきかせてやかんを抜いて最中だけ持って出掛けてしまった…。女中のお清は用意万端だったのに、小僧の定吉がそれを知らなかったというのがそもそものはじまり…という「やかんなめ」は初めて聴いた。
道中、草むらから蛇が出てきたのにビックリして、女将さんは癪を起してしまう。これも定吉が「女将さん、蛇ですよ!」と言わなければ…。お店に奉公して一年足らずの小僧だから、そこまで気が回らないということなのだろう。お清がツルツルに禿げたやかん頭のお侍を発見し、「これだ!」と思って、無礼討ちを覚悟で「その頭を舐めさせてください」と願い出るのは、これぞ忠義であろう。
サゲも一工夫されている。侍の家来の可内が女将さんがやかん頭を必死にベロベロと舐めまくる様子を見て大笑いしてしまう。正気に戻った女将さんが恩人の侍に「舐めてしまって申し訳ありません」と謝ると、「何、すでに家来になめられておる」。昇也師匠はこういうところが上手い。
貞鏡先生の「宗悦殺し」。深見新左衛門の不条理が根底にある読み物だ。金貸しの按摩・宗悦が再三再四、借金の取り立てに来るが、「無いものは無い」「めくらが来ると酒が不味くなる」と追い返し、挙句には「しつこい!無礼討ちにするぞ!」。これには宗悦が「無礼なのはどちらですか」と反論するのも道理だ。
そして宗悦を斬り殺して、葛籠に入れて外に棄ててしまう惨さ。妻のおまさが「宗悦さんが可哀想」と思い患い、床に伏してしまうところから怨念は始まっているのだろう。宗悦殺しの一年後、極月二十日の祥月命日に、おまさは宗悦の亡霊が見えると新左衛門に言うが、「夢だ」と片付けていた。これは悲劇の序章に過ぎない。
流し按摩を呼び寄せ、肩を揉ませるが、新左衛門が「住まいはどこだ?」と訊くと、「小石川の貧乏の巣窟、戸崎町でございます…」。宗悦の住んでいる町だ。気分が悪くなった新左衛門は揉み療治を止めさせるが、「もう少し揉ませてください」…。これが痛い。離せ!と声を荒げるが、按摩は「去年の今月今夜、宗悦が斬られたときは、こんな痛さではありませんでした…」。
その流し按摩が宗悦に見え、斬り殺す。すると、妻のおまさが宗悦に見え、これまた斬り殺す。最後には新左衛門自らの喉元も突いて、自害してしまったという…。狂い死にというのは、こういうことか。宗悦の怨念に震え上がる、真景累ヶ淵の発端だった。