歌舞伎「魚屋宗五郎」

六月大歌舞伎夜の部に行きました。「南総里見八犬伝 円塚山の場」「山姥」「新皿屋舗月雨暈 魚屋宗五郎」の三演目。

「魚屋宗五郎」は中村獅童の長男・中村陽喜と次男・中村夏幹の初舞台だ。獅童が演じる、大酒飲みだが妹思いで正義感の強い宗五郎を初役で熱演していた。陽喜と夏幹は酒屋丁稚与吉と長吉、6歳と3歳だ。可愛かった。

磯部主計之助の屋敷に奉公に出ていた妹のお蔦がお手討ちになった。家臣である浦戸紋三郎と不義を働いたためだという。宗五郎ほか家族はお蔦がそんなことをするとは思えないが、悲しみに暮れながら弔いの段取りをしている。

そこに弔問に来たお蔦と同じく磯部家に奉公しているおなぎが訪れ、真相を語ると悲しみは憤りに変わる。宗五郎の感情の変化が見どころだ。

お蔦に横恋慕する岩上典蔵が無理やりに口説いているところを、紋三郎が通り掛かり、お蔦のピンチを救った。これを恨みに思った典蔵が御家横領の企てをお蔦に聞かれていたこともあり、お蔦と紋三郎が不義を働いていたと主人の主計之助に密告し、主計之助は怒りのあまりお蔦を嬲り殺したというのだ。

怒りに身を震わせる宗五郎は酒乱のために金毘羅様に禁酒の誓いを立てていたが、悔しさのあまりにその禁酒を破る。父の太兵衛も女房のおはまも宗五郎の心情を察し、それを許す。そりゃあ、そうだろう。飲まずにはいられないだろう。おなぎが届けさせた酒樽から、最初は湯呑で飲んでいたが、やがて片口を盃代わりに飲み出し、挙句には酒樽を抱えて飲み干してしまう。

そして、その酔った勢いで磯部の屋敷へ駆け込む。慌てておはまが後を追うが、磯部邸に暴れこんだ宗五郎は殿様に会わせろ!と騒ぎ、悪態をつく。応対した妹の敵である岩上典蔵を足蹴にして、典蔵が宗五郎を斬り捨てようとするところ、家老の浦戸十佐衛門が現れて、これを止めてくれて良かった。

宗五郎が妹を思う胸の内を十佐衛門に吐露。十佐衛門の計らいで主計之助はお蔦を手討ちにしたことを詫びた。そして、宗五郎に弔慰金を、父の太兵衛に一生涯、二人扶持を与えることにした。さらに、岩上典蔵を直々に成敗する約束も取り付ける。死んだお蔦は帰ってこない。だが宗五郎の悲しみが少しでも和らいで、お蔦への供養にもなったとしたら幸いだなあと思った。