人形町噺し問屋 三遊亭兼好「妾馬」

「人形町噺し問屋~三遊亭兼好独演会」に行きました。「悋気の火の玉」と「妾馬」の二席。ゲストはマジックの山上兄弟、開口一番は三遊亭けろよんさんで「看板のピン」だった。

「妾馬」。兼好師匠らしい軽妙洒脱な語り口の中に、兄と妹の愛情をほろりと感じさせる素敵な高座だった。

身分の違いに頓着しない八五郎が好きだ。妹のおつるがお世継ぎを産んだと聞いて、「向こうから挨拶に来るのが筋じゃないか。何様だ」。これに大家が「殿様だ」(笑)。侍になれるかもしれないと言われても、「俺は大工が好きなんだ。両方はできない」とか、お目録頂戴で50両貰えるだろうと聞いて、「佃煮でも手土産に持って行ったほうがいいかな」。

お屋敷に着いても、門番に対し「俺の妹がお宅の大将のコレで、会いに来た」と堂々としているし、重役の田中三太夫に会っても「お久しぶり!親方!」。酒を注いでくれる女性がご老女だと聞かされて、「長屋にも糊屋のご老女がいる」。

すっかり酔っ払ってからは、赤井御門守に対し物怖じしない物言いが良い。「良い人だね。来て良かった。世辞でも愛嬌でもない。安心した。俺たちは小さい頃に親父を亡くして、世間の冷たい風に晒されながら、貧乏暮らしをしてきたんだ。だから、人を見る目は持っているよ。ニコニコしていても、腹の中では何を考えているのかとか。愛想ない人でも、この人は信じていいとか。殿様はボーッとしているけど、良い人だ。町で因縁つけられたら、あっしが仲に入るよ」。ガサツだが、憎めない人情味を感じる。

そして、妹のおつるを発見。「つるっぺか!見違えて気づかなかった。綺麗な着物着せてもらって良かったな。頭に差しているのも綺麗だな。長屋じゃ貧乏だったから、割り箸差していた。でもいい女だった」。

そして、母親の話になる。おふくろが喜んでいた。初孫だ!って涙流しながら踊って歩いていた。「めでたいのに、何で泣くんだ?」と訊くと、おつるにも孫にも会うことも出来ないのは寂しいって。おしめを替えたり、夜泣きを静めたり、おんぶをしたり、そういうことが出来ないのは寂しいって。だから、アンちゃんがおつるの幸せを見届けるって言ったんだ。

そして、八五郎は漢気を出す。頼みがあります。侍もオモクモクも要らないから、おふくろを一遍でいいから赤ん坊に会わせてやってくれませんか。遠くからでいい。顔だけ拝ませてくれ。あとは何も要らないから。

さらに妹への愛情が滲み出る言葉。妹をひとつ宜しくお願いします。たった一人の妹です。小さい頃から妹だけがあっしを庇ってくれた。アンちゃんは悪くないって。幸せにしてやってください。

お前も赤ん坊を産んだからって威張っているんじゃないぞ。頭を下げていれば、皆が親切にしてくれるから。兎に角、殿様をしくじるな。

ガサツだけれど、人間味のある情愛溢れる兄・八五郎。素敵な高座だった。