菊太楼の流行りに乗ったり乗れなかったり 古今亭菊太楼「替り目」鳴り物入り

上野鈴本演芸場六月下席三日目夜の部に行きました。今席は古今亭菊太楼師匠が主任で、「菊太楼の流行りに乗ったり乗れなかったり」と銘打ってのネタ出し興行だ。①三井の大黒②貧乏神③替り目(鳴り物入り)④柳田格之進⑤山崎屋⑥地獄八景亡者戯⑦ちきり伊勢屋(上)⑧ちきり伊勢屋(下)⑨文七元結⑩子は鎹。きょうは「替り目」を鳴り物入りという趣向ということで、伺った。

「黄金の大黒」柳家小じか/「金明竹」古今亭菊正/ジャグリング ストレート松浦/「おすわどん」柳家㐂三郎/「鹿政談」蜃気楼龍玉/粋曲 柳家小菊/「桃太郎」春風亭一朝/「野ざらし」古今亭菊志ん/中入り/奇術 ダーク広和/「寿司屋水滸伝」春風亭百栄/紙切り 林家楽一/「替り目」(鳴り物入り)古今亭菊太楼

菊太楼師匠の「替り目」。寄席でもホール落語でもフルバージョンで聴くことはまずない。その上、鳴り物入りの演出ということで、おっとり刀で駆け付けた。

俥屋が酔漢を客引きする場面。「ご機嫌ですな。男と見込んで乗っていただけませんか」の“男と見込まれた”部分に反応して、酔漢は乗るが「どちらまで?」に「行くとこないんだ。お前んち行こう…じゃあ、真っ直ぐ行ってくれ…塀なんか突き破って…」。それで自分の家の戸を俥屋に叩かせて、「こちらの旦那が…入っちゃ駄目ですよ!」に、女房が「いいんですよ。家の人ですから」。「お前さん、どうして家の前で俥に乗るの!」「男と見込まれたから…」。愉しい。

自宅に帰っても酒を飲みたがる亭主。「いいから、お寝なさい!」「お寝ない!ちっとこんなことやりたいね、こんな形で硫酸飲む奴はいないだろう!」「飲めないからよしなさい!」「飲める!」。で、「旦那様、外は外、内は内、私のお酌じゃ美味しくないでしょうけど…」と勧めれば断るという亭主の計略に引っ掛かってしまう女房が可愛い。

「つまむものないの?」「鼻でもつまみなさい」、「今朝俺が食い残した納豆36粒半…」「食べちゃった!」、「いただきました、となぜ言えない?鮭の焼き冷まし」「いただきました」「クサヤの干物」「いただきました」「おこうこは?」「まだ漬かっていないの」「生でいい!その後で糠食って、重しを載せればいい」。軽妙な掛け合いが良い。女房がおでんを買ってきてあげると言うと、亭主は「ヤキ」と「ガン」が食べたい、焼き豆腐とがんもどきの言葉を詰めた、言葉が長いとおでん屋が小便して寝ちゃう。女房は「私はスとブ」「?」「スジとコンブ」。

女房が鏡台の前に座ると、亭主は「お前なんか、顔など無くたっていいんだ。女なんか裏のドブと同じで後から後から詰まっているんだ」と悪態をつくが、「他人からはお前のかみさんはお前には過ぎものだと言われている。判っているけど、それを見せちゃうとつけあがるから」。バカ!スベタ!オタフク!と言いながら、心では手を合わせて、「おかみさん、すみません!」と思っている、私はあなたに惚れている。あなたは私の弁天様です。ああ、まだいたのか!元帳見られちゃった!「元帳」という表現が好きだ。

うどん屋に徳利の酒をお燗させる件。「煮え燗、ぬる燗は駄目だよ。湯から上がった乙な年増の人肌にしてくれ」。さらに海苔まで炙らせて、酒に燗がつくと、「上燗、上燗、ありがとさん!ご苦労さん!」。「うどんを召しあがってくださいよ」に「ミミズみたいにのたくっていて、うどんは大嫌いだ!」、「雑煮はいかがですか」に「酒飲みに雑煮を勧めるトンチキがあるか!」。その上で、「夜中に火を担いで歩いて、危ない野郎だな!」。図々しい亭主に呆れて帰るうどん屋に同情する。

次に新内流しが通る。ここが今回の鳴り物入り演出だ。「新内屋!」と呼び止め、蘭蝶や明烏は聴き飽きたから短いところで都々逸をやってくれと注文。♬丸めて投げ込む紙屑籠は愚痴や未練の捨てどころ~。菊太楼師匠、良い喉だ。小咄のアンコ入りも面白かった。友達集めて酒盛りしたら 盃に飛び込む蚤も飲み仲間 酒飲みならば殺されもせず。これに蚤が返歌する。飲みに来た俺をひねり殺すなよ 飲み逃げはせぬ晩に来て刺す 樽を枕に飲み潰れ~。「飲み」と「蚤」を掛けた粋な都々逸だ。さらに三味線に乗って、上半身だけでかっぽれを踊る菊太楼師匠が楽しそうで良い。

そして、女房が帰ってきて、うどん屋に燗をさせたことが判り、済まないと思った女房が「うどん屋さーん」と呼ぶが、うどん屋が「あそこはいけない。お銚子の替り目だ」という本来のサゲ。普段省略されてしまう部分を全て演じた上に、新内流しの部分を加えて「鳴り物入り」という演出にした菊太楼師匠に拍手を送りたい。