三遊亭わん丈真打昇進披露興行「茶金」

上野鈴本演芸場の三遊亭わん丈真打昇進披露興行に行きました。落語協会では12年ぶりとなる抜擢で真打に昇進した林家つる子師匠と三遊亭わん丈師匠の披露興行二日目。きょうの主任はわん丈師匠で、何とネタ卸しの「茶金」を演じた。

「寄合酒」三遊亭伊織/太神楽 翁家勝丸/「再編家族」三遊亭天どん/「河豚鍋」古今亭菊之丞/漫才 すず風にゃん子・金魚/「つる」古今亭文菊/「楽屋外伝」鈴々舎馬風/「時そば」柳亭市馬/ものまね 江戸家猫八/「狸賽」柳家三三/中入り/口上/紙切り 林家二楽/「つる・改」五明楼玉の輔/「反対俥」林家つる子/浮世節 立花家橘之助/「茶金」三遊亭わん丈

口上の並びは下手から、三三、菊之丞、玉の輔、わん丈、天どん、市馬、馬風。司会は三三師匠、わん丈師匠は前座の頃から気働きが出来て、高座も面白く、目立つ存在だった、才気煥発、華があったと。真打になって益々大きく羽ばたき、「落語界にわん丈あり」と言われるようになるだろう、とも。

菊之丞師匠、前職はロックバンドのボーカルをやっていただけあって、声が良いのは強みであると。カラオケボックスで市馬会長と差しで7時間半歌い続けたというのには驚いた。センスのある新作、牡丹燈籠を通しでやる古典、どちらも優れている二刀流を絶賛した。

玉の輔師匠、まずわん丈は希望の星だと持ち上げる。兄弟子のふう丈さんが真打披露の裏方を一生懸命に勤めている姿は素晴らしいとした上で、これが逆だったら、「わん丈は絶対に手伝わないだろう」と冗談を飛ばす。それくらい負けん気があるのがわん丈師匠の良いところで、そういうわん丈師匠だからこそ、お客様はついてくる、どうぞ今後も応援よろしくお願いしますと締めた。

馬風師匠、「昨日の鰻弁当、女房の分まで頂いて、ありがとう」と御礼を言って、こうした気遣いはこれからも忘れないようにと笑わせる。イキの良い新真打が誕生、歴史に残る一枚看板になれますように、「隅から隅まで…」と恒例の馬風ドミノがきょうも綺麗に決まった。

市馬師匠、新しいスターの誕生を喜ぶ。亡き師匠の円丈さんを彷彿とさせるものがあり、お客様を楽しませよう、笑わせようと「色々な手を使って」高座に工夫を加えることは大変に良いことだと賞賛した。でも、「噺家が高座で歌を歌うようになったらおしまい。気をつけるように」と自虐的な笑いをとって、客席を沸かせた。

天どん師匠は「ウチの師匠(円丈)が元気だった頃の眼鏡」を持参し、“円丈がもしこの口上にいたらどうなるか”と言って、物真似で「おめでとう!これからも頑張ってね」。昨日の打ち上げで皆に「初めての真打披露で掛けたネタは?」と訊いたら、誰も覚えていなかったと。事程左様に、きょうでおしまいではなく、初めての高座のことを忘れるくらいに、今後どんどん寄席でトリをとって、活躍してほしいと期待をこめた。愛のある口上だった。

わん丈師匠の「茶金」。出囃子は中の舞で上がり、舞台上手に飾ってあった「円丈師匠の陣羽織」に対し、一礼をした後、座布団に座る。「披露目の高座を亡き師匠に見て貰おうと飾りました…私は相変わらずやることがクサイですね」と照れながら語る。生前、円丈師匠に「なぜ、袖がないのですか?」と尋ねたら、「皆の羽織には袖があるから」と答えたという。他の噺家とは違うことをやりたい、そういう挑戦的な師匠に敬意を表しているが伝わってきた。

前座として楽屋入りしたときに、丁度天どん師匠の真打昇進披露興行の前座を勤めたそうだ。口上には、先代金馬、先代円歌、小三治、馬風という錚々たる面々が並んでいたそうだ。小三治師匠が「道灌」を演り、「これで中入りだ」と思って、大きな声で「おなかいーりー」と声を出したところで、先輩の前座が手でわん丈の口を塞いだ。何と、そこで中入りではなく、その後に菊之丞師匠が上がって中入りだった。完全な勘違いでしくじり、前座全員で高座を終えた小三治師匠に謝りに行った。小三治師匠は一言、「そこにある蒲鉾を取ってくれないか」。一安心。

だが、よく考えてみると、菊之丞師匠に謝るべきじゃないか!とハッと気がつき、慌てて謝りに行った…と、わん丈師匠がマクラを喋っていると、缶ビールを片手に持った菊之丞師匠が高座に乱入、追うようにして天どん師匠も現れて、わん丈師匠に向かって「早く、落語に入れ!」。客席は思わぬハプニングに大爆笑だった。

そして、わん丈師匠が言った言葉に耳を疑う。「これからネタ卸しをします」。真打披露の歴史の中で、こんなことはかつてあっただろうか。これも市馬会長の言う「色々な手で客席を喜ばす」わん丈師匠のサービス精神の顕われだろう。そして、この高座の出来がとても良かった。余程、忙しい中、稽古をしてきたのだろう。

前半は江戸を食い潰した油屋の八五郎が一攫千金を狙う鼻息が面白い。茶屋金兵衛、通称茶金さんが清水寺の音羽の滝の茶屋で“はてな?と首を6回傾げた”茶碗をめぐる茶店の主人との攻防。有り金全部3両と2両にはなる商売道具と引き換えに“600両の茶碗”を譲ってほしい、譲ってくれなければ「恨みっこなし」で茶碗を叩き壊すと脅す…。この勢いに茶店主人も根負けしてしまう。

そして、八五郎が京都三条木屋町筋にある茶金さんの店へ、またまた鼻息荒く乗り込んで、「600両の茶碗を持ってきた!」。鼻で笑った番頭を張り倒し、茶金さんが目利きすると「駄物の清水焼。3文」。4日前の茶店の一件を話すと、「この茶碗、洩るねん」。さすがの八五郎も「無闇に首を傾げるんじゃないよ!」と意気消沈する様が可笑しい。

このときの茶金さんの応対が好きだ。「商いは信用が第一。茶金という名に5両の値をつけてくれた。商いはその道にして賢し。私のせいで損をさせてしまった。一肌脱ぎましょう。5両で買わせてもらいます」。そう言って、八五郎に「真面目に働くこと」を諭すところ、人徳者である。

この「なぜか洩る茶碗」の話が関白様、そして帝の耳に入り、ご覧になったことで、価値が上がり、千両の値がついて、半分の500両が八五郎の手に渡る。そのときの八五郎の登場の仕方、米米CLUBの♬ア・ブラ・カタ・ブラ~を口ずさみながらという演出がわん丈師匠らしくて愉しかった。きのうに続き、市馬会長顔負けの歌う高座に客席が沸いた。