午後の白酒、そして浪曲かるた亭 港家柳一「忠治関宿落ち」

らくごカフェの「午後の白酒」に行きました。桃月庵白酒師匠が「雛鍔」「お茶汲み」「花見の仇討」の三席。

「花見の仇討」。金ちゃん、六ちゃんの巡礼兄弟コンビが最高に愉しい。仇討芝居の趣向を考えた建具屋の熊さんが教えた芝居台詞、稽古のときは“読み聞かせ”みたいだし、本番のときは“お遊戯会”みたいだし、この間抜けなところがとても可愛らしい。割り台詞が終わって「せーの!」と言って、声を合わせて「しょーぶ、しょーぶ!」(爆笑)。

「親の仇」が、稽古のときは「マヤの遺跡!」、本番では「山のマタギ!」になっちゃうのも可笑しい。上野の擂鉢山に到着しても、仇役の熊さんを見つけられずに、「仇はどこでしょう?」と花見客に訊いちゃうし。仇の名前を「悪そうなやつにしろ」と言われて、「汝はタニガワヤイチよな!」。自民党パーティー費不正報告書で辞めた元衆議院議員じゃん!それは確かに「悪そう」だ。

夜は「浪曲かるた亭」に行きました。

「忠治関宿落ち」港家柳一・佐藤貴一/「江藤新平と芸者お鯉」東家三可子・佐藤貴美江/中入り/「文七元結」国本はる乃・佐藤貴美江

柳一さん、とても良かった。父親が亀山万蔵という親分のイカサマ博奕に引っ掛かり、首を括って死んだ。そして姉の十八になるお花はその万蔵が手籠めにして、今夜祝言を挙げることになった。そう訴える十二歳の友太郎の話を聞いて、“不動の新助”と名乗る男(実は国定忠治)がこれを救おうと万蔵の家に駆け付ける。

「あっしは旅烏の新助でござんす。お祝いに派手な余興を披露に参りました。トンビに油揚げという余興です」。そう言うと、「その盃、待った!」。その娘さんはこの婚礼に不承知、血の涙を流していると言って、「俺が貰っていく!」。まさに、トンビに油揚げをさらわれた形の万蔵だ。そして、“新助”はお花と友太郎の姉弟に20両を渡し、これで逃げろと去って行く。忠治、カッコイイ!

20年後。下総関宿。友太郎は林家善兵衛の下で十手持ちとなっていた。姉のお花は芸者となり、善兵衛の女房になっていた。上州屋という宿に国定忠治が泊まっているという情報を得て、友太郎は手柄をあげるために単身、上州屋に乗り込む。善兵衛親分からは「火事より怖いは忠治の小松。ニッコリ笑って人を斬る」と聞かされた上で、だ。

友太郎が忠治と対面すると、忠治は20年前の大恩人“不動の新助”だった。友太郎は態度を一変させる。「会いとうござんした」「あのときの悪戯小僧だな。いい若い衆になったな」。忠治は「お前を立派な男にしてやる」と自らお縄になろうとする。だが、友太郎はお縄どころか、忠治を逃がしたいと考える。

善兵衛親分の持っている釣り船を漕いで利根川から逃がそう。姉のお花に話して、釣り船の合鍵を貰い、こっそり船を出そうとしたとき、その背後では善兵衛親分が見送っていた。百姓を苦しめていた悪代官を叩き斬って人助けをしている忠治のことを、善兵衛親分も見逃してやりたいと考えていたのだった。ダークヒーロー、国定忠治が庶民からも愛されていたという…。素敵な物語だった。

三可子さん、これまた素晴らしい。明治維新に大きく貢献した江藤新平が征韓論の意見の食い違いから新政府軍と対立して捕らえられ、悲惨な最期を遂げた…。新橋吉田屋の人気芸者のお鯉は新年会で一度だけ贔屓にしてもらった恩義を感じ、国賊扱いのようにされている江藤を供養したいという強い思いに惹かれた。

新橋の写真屋・開明館のショーウインドウに飾られていた“江藤新平の晒し首”をお鯉は見つけ、一枚10銭と聞き、慌てて在庫の15枚を1円50銭で買い取り、仏壇に納めて回向した。立派に国事に奔走した江藤の無惨な最期の姿を人目に晒すとは惨い仕打ちだ。その後も売られるその写真を雨の日も風の日も通い詰め、買い占めた。江藤に迷わず成仏してほしいという願いからだ。周囲からは頭がおかしいと思われようが、その信念を曲げない姿がすごい。

そして、八百膳での新年会。大久保利通、山県有朋、西郷隆盛らが顔を並べる中、芸者として列座したお鯉は西郷に許しを得て、出席者の前で懐にしのばせていた江藤の晒し首の写真を取り出し、訴えた。「これに覚えがありますでしょう?江藤様のお写真です。ともに国事に奔走した仲間の無惨な写真を10銭で販売するなんて残酷です。販売禁止をお願いします」。

この熱意には、処刑を命じたさすがの大久保利通も感じ入るところがあったのだろう。「写真の販売は禁止するから、安心せよ」と約束した。一介の芸者であるお鯉が日本政府のお歴々の前で堂々と正義を訴える姿に感動を覚えた。

はる乃さん。浪曲の「文七元結」は初めて聴いた。落語や歌舞伎に較べると、あっさりした印象を受けた。江戸っ子の心意気を表すのには、こういうあっさり演出も良いのかもしれないが…。

まず、大工の熊五郎が吉原の角海老に行って、身売りを嘆願した娘のお花のお陰で女将から50両を借りることができる。そのときの約束が、「1年でも2年でもいつでもいいので、必ず返しておくれ。返さないとこの娘を店に出すよ」。期限が曖昧なのはちょっと厳しさが足りないのではないだろうか。

そして、吾妻橋で身投げしようとする文七を熊五郎が止めるところ。「50両あれば助かるんだな…持っていけ!」といとも簡単に大切な50両を渡してしまう。所も名前も言わない。ただ、「ありがたいと思ったら、角海老に向けて、お花大明神と拝んでおけ」とだけ言い残す。あとは「江戸っ子は気が短いんだ、あばよ!」で去って行く。

翌日に近江屋卯兵衛が文七を伴って、熊五郎夫婦を訪ねるところ。「命の危ういところ、ありがとうございました!」。卯兵衛が言うには、「角海老に向けて、お花大明神と拝んでおけ」という言葉だけを頼りにやっとのことで探し当てたそうだ。卯兵衛はお花の親孝行と、熊五郎の親切心を見て、「この親にして、この娘あり」と痛く感心する。人情が紙より薄い世の中で、このようなことができるなんて素晴らしいということだろうが、もう少し登場人物の心情に深く入り込んだ高座を拝聴したいと思った。