巣ごもり寄席、そして林家きよ彦「雨の月」

スタジオフォーの巣ごもり寄席に行きました。

「真実」三遊亭ごはんつぶ/「うどんや」春風亭昇羊/「毛氈芝居」三遊亭わん丈

ごはんつぶさんのこの新作は先月、高円寺で聴いたが、そのときは「プロビデンスの目」という演目名だった。落語「やかん」に入るが、ある都市伝説に囚われてしまい挫折して、その都市伝説の説明をはじめるという…。その内容はネットには書かないでとおっしゃっているので控えるが、お客を選ぶネタだなあと感じた。きょうのお客さんには大いに受けていたから、杞憂に過ぎないのかもしれない。

昇羊さんの技術力には舌を巻く。酔っ払いが「仕立屋の太平の一人娘ミー坊が婿を取って、婚礼に招かれて行った」話をうどん屋に繰り返すところ、人情噺っぽくもあり、滑稽噺っぽくもあり、巧みに操っている感じにポテンシャルを感じる。そして、風邪っぴきの客が鍋焼きうどんを食べる仕草が実に巧い。観ているこちらも一緒になって食べている感覚に襲われ、帰りに鍋焼きうどんでも食べて帰ろうかと思うくらいにイマジネーションが膨らむ所作である。

来月には真打に昇進するわん丈さん。弟弟子のごはんつぶさんの“途中までの「やかん」”を受けて、円丈師匠に教わった戦国の武士が薬缶を被って戦場で活躍する場面の言い立てを見事にやって、万雷の拍手。さすが、抜擢真打。本題では、歌舞伎「蔦紅葉宇都谷峠」の文弥が検校になるために妹が身売りして拵えた100両を狙って、伊丹屋十兵衛が文弥を斬り殺す場面を芝居掛かりでしっかり演じられるところなど、本当に器用だなあと感心した。

夜は林家きよ彦独演会に行きました。「追っかけ家族」「母娘酒」「オサガリ」「雨の月」の四席だった。

「追っかけ家族」はお馴染みの一席。高校教師の中村先生が担任をしているユウコの家庭訪問をしたいのだが、お母さんは仕事が忙しく、職場訪問という形を取るが…。お母さんはフルーツバスケットというアイドルグループの一員で、その握手会に行って会わなければならないという発想が面白い。お母さんは娘のユウコよりも年下ということになっており、勿論結婚しているなんてことは極秘。先生は握手会のためにアルバムを30枚購入、さらに訪問したレポートに“サイン”をしてもらうために、全国ツアーを一緒に回って、夏のボーナスを全て費やしたという…。愉快な高座だ。

「母娘酒」は古典落語「親子酒」の設定を女性にした改作。去年、彦いち師匠と紙切りの林家正楽師匠と三人で台湾公演をしたときに演じたもので、「正楽師匠追悼」の気持ちをこめて掛けてくれたのが、なんとも素敵である。

「オサガリ」はネタ卸し。53歳の部長と23歳の新入社員の山本君は同じアルマーニのスーツを着て、同じオメガの腕時計をしている。その理由は…。二人があやしい関係であるわけもなく、ただ山本君の“おさがり”を部長が着用しているのだった。そもそも、歌舞伎とか落語とかも“継承”という名の「おさがり文化」ではないかという着眼点が面白い。実は山本君は政治家の2世で、近々“地盤”、つまり選挙区を父から受け継ぐという。これもまた、おさがりと言えば言えなくもない。SDGsの世の中を映し出した傑作に成長する予感を感じた。

「雨の月」は落語協会の2023年度新作落語台本募集で佳作を受賞した佐藤雄貴さんの作品だ。きよ彦さんが「私にはとてもこういう作品は作れない」と褒めていらっしゃったが、サゲがとてもロマンチックな素敵な新作落語である。

結婚相談所の相談員のモチヅキさんのところに何度も相談に来るオガサワラさんはなかなかお付き合いが上手くいかないと嘆く。モチヅキさんは“告白”の秘訣として、夏目漱石が「Ilove you」を「月が綺麗ですね」と訳したという例を持ち出した。

回数制限のある相談、オガサワラさんがモチヅキさんに最後の面談に行ったとき、モチヅキさんは前回の別れ際に「笑った顔が一番ですね」と言ったオガサワラさんの言葉が忘れられなかった、そして駅の近くの踏切で転んだおばあちゃんを助けていたオガサワラさんを見て「とってもカッコ良かった」と賞賛した。そして、最後の面談のレポートに「オガサワラさんが結婚できないなんておかしい」と書き記した…。そのときオガサワラさんが雨上がりの空を見上げてモチヅキさんに言った一言に胸がキュンとなった。素敵だ!!