三三と若手、そして桂二葉チャレンジ!!「天神山」
らくごカフェの「三三と若手」に行きました。
「壺算」三遊亭伊織/「お直し」蜃気楼龍玉/中入り/「長屋の花見」柳家三三
伊織さんの「壺算」。“買い物上手”の源さんは3円50銭の一荷の甕を3円に値切るのに、幼児体験を語る。鉄瓶の中の湯がこぼれて、腕に火傷をした。そのときの、ジュ!という音が大嫌いだと…。瀬戸物屋の主人は「商売には魔日というのがあります。きょうはそういう日だと諦めます」。さらに二荷の甕はお値段も倍、ということは定価7円が6円になってしまい…。「きょうは大魔日だということで。商売しない方が良かった」。
算盤を持ってきて、「この3円は素直に入るのですが、問題はこの甕の3円…3円ということは判っているけど、なぜか入りたがらない」。3円と3円で6円だろ!と源さんにせっつかれ、「甕と金を足すのは初めてなんです…」。パニックを起こす瀬戸物屋の主人が愉しかった。
龍玉師匠の「お直し」。男の弱さと女の強さを見る。お茶を挽いていた女郎を若い衆が慰めたのがきっかけで、吉原ではご法度の深い仲になってしまった。廓主人の親切心で証文を巻いてくれて、二人は夫婦となり、男は引き続き若い衆、女は遣り手のおばさんとして一緒に働けることになったが…。懐が温かくなると気が緩むのはいつも男だ。千住に居続けをして、さらに博奕の沼にはまる。結果、主人の親切を裏切ることになり、二人は店を去り、すっからかんの貧乏暮らしだ。
吉原の最下層の蹴転(けころ)をやる決心。若い衆は亭主がやるから良いけれど、女郎は女房のお前がやれと言う。線香1本200文で、客をどれだけ引き留められるかという商売。「お前さん、焼き餅は妬かないかい?」と女房が亭主に念を押して、「結構毛だらけ、猫はいだらけ」と請け負ったが…。
酔っ払いの客を亭主が引っ張り込んで、女房に相手をさせる。「こっちへお入りよ。寄ってらっしゃいよ。あら、冷たい手。どこをほっつき歩いていたんだい?様子がいいから、女がほっておかないだろうよ」。酔っ払いは「こんないい女がいるわけない」と驚き、「金だろ?何とかするから、俺の女房にならないか」と口説く。30両を都合してくれればと言われ、「わかった。明後日持ってくる。親許身請けということにしよう」と乗り気になる。
まあ、嬉しい。こんなに嬉しいことはないよ。甲斐性ある人と所帯が持てるなんて、私もようやく浮かび上がることができるよ。仲良くしているだけじゃあ、つまらないから、たまには喧嘩もしようよ。あなたに殴られても痛くない。半殺しにされても構わない。
客を少しでも長く引き留めようと、女房は酔っ払いに甘い言葉をいっぱい投げる。はじめは我慢していた亭主だが、段々に本気じゃあないかと思ってしまって、「直してもらいなよ」を言う間隔が短くなる。
客が帰った後は「やめだ!こんなことは!馬鹿らしい。明後日、あの男が30両持ってきたら、一緒になるのか!」と怒鳴り出す始末。これには女房も呆れて、「私もよすよ。私だって、こんなことしたくない。一体、誰がこんなことをやらせているんだい?よしやがれという言い草があるかい!…私は昔のお前さんの親切が忘れられなくて、だから別れたくなくて…それが…」。
まだ亭主に惚れているからこそ、こんな嫌な商売をやる決心をしたのだ。そこまで気が張っていた女房が女性としての可愛い一面を見せると、亭主は我に返って、すまないと思う。「二人で一つの鍋焼きうどんを食べたよな。機嫌直してくれよ。俺とお前は夫婦じゃないか」。
蹴転という最底辺に堕ちてしまった男女。だが、そこに愛があるのだということが伝わってきて、心に沁み入るようだった。
夜は「桂二葉チャレンジ!!」に行きました。「上燗屋」と「天神山」の二席。ゲストは三遊亭兼好師匠で「陸奥間違い」、開口一番は柳家ひろ馬さんで「黄金の大黒」だった。
「天神山」、ネタ卸し。江戸落語の「安兵衛狐」だ。ヘンチキの源助とどうらんの安兵衛という2人のキャラクターを見事に演じていた。
ヘンチキの源助は日和が良いので、近所の人に「花見にでも行くのか?」と問われ、悔しいから「墓見に行くんだ」と言って、一心寺にお丸弁当と尿瓶酒を携えて出掛けるのが愉しい。俗名小糸と書かれた石塔に向かって、酒と肴でやったりとったり(一人なんだけど)しながら、色気のある女性とお喋りしているつもりになるのが何とも言えず可笑しい。
塔婆で墓を掘り、しゃれこうべを懐に入れて、家に持ち帰り、仏壇に供えて、寝入っていると…。「一心寺でお目にかかりました者でございます」と美人の幽霊が訪ねてくる。恨みを言うどころか、御礼に参りましたと。京都西陣の織屋清兵衛の娘だった小糸は言い交わした仲の男と「この世で添えなければ」と心中をしたが、男は逃げ去ってしまった。浮かばれなかったところを、源助が結構な手向けをしてくれたと感謝する。そして、「逆縁ながら女房にしてください」。これに対し、源助は「洒落ている!」と応じて、祝言をあげるという…。さすが、ヘンチキだ。
この様子を知ったどうらんの安兵衛が「若い女をどうやって引っ張り込んだのだ?」と尋ね、事の次第を源助から教えられると、早速に一心寺へ。簡単にしゃれこうべが落ちているわけもなく、天神山に拝みに行き、「女房を世話してください」と頼む。裏手で狐を捕って黒焼き屋に売ろうとしている河内の角右衛門を見つけ、「可哀想だ。逃がしてやりたいので俺が買う」と言って、5円と角右衛門が言うところを2円に値切って、なんとか狐を譲り受ける。そして、「危なかったなあ。もうちょっとで黒焼きにされるところだった。気つけよ」と言って逃がしてやる。安兵衛は情のある男だ。
別れ際、「カカ頼んだろ…友達でもかまへん、誰か女房になる奴はおらんか」と安兵衛が言ったことを狐が覚えていた。二十二、三の綺麗な女性に化けて、安兵衛の前に現れた。そして、安兵衛と夫婦になって子どもも産まれた。
だが、3年も経つと、安兵衛の女房の正体が世間にばれそうになる。女房は「もうここにはいられない」と悟って、障子に書置きをして姿をくらませた。恋しくば訪ねきてみよ南なる天神山の森の奥まで。最後は歌舞伎の「蘆屋道満大内鑑 葛の葉」のようで、物悲しい気持ちになった。
堂々たるネタ卸しで、二葉さんのポテンシャルの高さに胸が躍った。