壽初春大歌舞伎 小山内薫作「息子」一幕

「壽初春大歌舞伎」夜の部に行きました。「鶴亀」「寿曽我対面」「息子」「京鹿子娘道成寺」の四演目。

「息子」は小山内薫作。平成17年以来の上演だ。火の番の老爺を松本白鸚、金次郎を松本幸四郎、捕吏を市川染五郎と親子三代が演じるところが興味深かった。

老爺が侘び住まいをしている番小屋に、頬被りをした若い男が入って来る。老爺は男を火に当たらせ、煙草を与え、弁当の残りを食べさせる。その男は大坂でイカサマ博奕をして食いつないでいたが、両親に会うために江戸に戻ってきたという。その両親を探し当てたとしても、こんなヤクザ稼業になってしまった息子とは会ってくれないだろうという。

だが、老爺は親というものはそんなに冷たいものじゃない、きっと会ってくれるだろうと返す。そして、自分にも上方に行った一人息子がいるという。その名前は金次郎。きっと上方で立派にやっているだろうと希望をもって語る。

この若い男は金次郎だった。そして、この老爺が自分の父親であることに気づいた。だから、その“金次郎”について否定的なことばかり言って、父の幻想を打ち消そうとする。現実を知って、ガッカリさせたくないと思ったのだろう。

万が一、息子がしくじって、困って帰ってきたらどうするのだと問う。老爺は息子はそんな奴じゃないと憤る。おそらく、老爺もまた、この若い男が実の息子の金次郎であると気づいていたのだろう。

捕吏に一旦捕まったが、隙を窺い逃げ出してきた金次郎が、番小屋に戻ってきて老爺に尋ねる。「婆さんは元気か」。すでに死んだと老爺が答えると、金次郎は「息子の帰りを待たずに死んだか」とつぶやく。

そんな金次郎に早く逃げろと老爺が言う。降りしきる雪の中を駆け去って行く。親が子を思う気持ち、そして子が親を思う気持ち。お互い離れ離れになっても、息子が立派な商人や職人になっていようが、たとえ“お尋ね者”に身を落としていようが、その情愛の深さに変わりはないのだ。胸がキュンと締め付けられた。