講談ボタニカル、そして春風亭昇羊「うどんや」
お江戸両国亭の講談ボタニカルに行きました。
「孝女 お露」一龍斎貞奈/「お民の度胸」一龍斎貞鏡/「青嵐」(山本周五郎原作)神田すみれ/中入り/「鎌倉星月夜」一龍斎貞寿/「日本女医誕生記」宝井琴桜
貞鏡先生の「お民の度胸」。森の石松を匿った小松村の七五郎の女房・お民の啖呵の見事さ。これは貞鏡先生のキャラクターにピッタリでとても良かった。
逃げた石松を追ってきた都鳥の吉兵衛以下10人の子分たちが血刀をぶらさげて訪ねてきても、七五郎は「石は来た。だが、それは昨晩のこと。今はいない」とシラを切る。それでも執拗に詮索する都鳥一家に対し、強気に出たのは女房お民の方だった。「疑うなら、家中を探すがいい。それでいなかったら、容赦しないよ。その覚悟はあるんだろうね」。
これには吉兵衛はじめ子分たちも震え上がる。すっかり屁っ放り腰になってしまっているのが目に浮かぶようだ。相手に意気地がないのを見透かしているお民の肝の据わり方がすごい。戸棚の中に隠れている石松も惚れ直したことだろう。
貞寿先生の「鎌倉星月夜」。奥女中取締役の局松島に惚れた執権北条義時の次男、次郎朝時が情けない。松島の侍女・賤機(しずはた)を介して、三通の恋文を送ったが、松島は封も開けずに返してしまう。振られたわけだ。それなのに諦め切れない朝時は松島が座敷から出てくるところを待ち伏せして、襲いかかるという…。
その現場を偶然通りかかった、所司代別当職和田左衛門尉義盛の三男、朝比奈三郎義秀が松島の窮地を救う。今度は松島が義秀に恋煩いをしてしまう。恋文の歌の文句が洒落ている。張りつめし胸の氷の苦しさを朝日にとける折を松島。義秀もこの女性ならと思ったのであろう。妻にしたいと兄に相談し、父の義盛に話がいって、御台所政子の媒酌で婚礼を挙げた。
だが、悔しい朝時は叔母の政子に嘆願し、政子も甥可愛さもあって、何と義秀と松島の仲を引き裂いてしまう…。酷い。これによって松島は自害してしまうという悲劇。貞寿先生が女性の恋心とその末の哀しみを巧みに表現していて、引き込まれた。
夜は「ひつじのばば~春風亭昇羊ネタだし落語会」に行きました。「子ほめ」「夢の酒」「うどんや」の三席。昇羊さんが真打昇進を見据えて、本腰を入れて落語に取り組みたいと、原則毎月開催する勉強会的意味合いの強い会だ。
「うどんや」。風邪っぴきの客が鍋焼きうどんを食べるところ、とても良かった。仕草がとても綺麗ということもあるし、寒い中美味しそうにうどんを食べているのがジンジン伝わってきて、聴き手のこちらまで温まるようだった。
前半、酔っ払いが火にあたって、かじかんだ手を温める件。もう少し図々しい感じを出すと良いと思った。火が弱いと言って、炭を足させるところ、最後に「指がピーンとなった。かみさんによろしく」とうどんも食べずに去ろうとするところ、そして「うどんは嫌いなんだ。雑煮?酒飲みに餅を勧めるトンチキがあるか!」と怒鳴るところ、もっと憎たらしいくらいの方がいい。
「仕立て屋の太兵衛を知っているか?」ではじまる繰り返しの件。もっとクサいと思われるくらいに人情噺風味を足すと良いと思った。十八になる娘のミー坊が商売仲間から婿を取って婚礼をした。そのときの玄関先の「おじさん!おじさん!」と駆け寄るところ、正面の唐紙が開いて「おじさん、さてこの度はご心配を授かりまして、ありがとうございました」と立派な挨拶をするところ、ミー坊が小さい頃から可愛がっていて、そのミー坊が成長した喜びみたいなものが、この酔っ払いの台詞から溢れてくると、「こんなめでたい日はないよなあ」という台詞が生きてくると思った。