鈴本正月二之席 柳家喬太郎「すなっくらんどぞめき」
上野鈴本演芸場正月二之席初日夜の部に行きました。柳家喬太郎師匠が主任を勤める興行だ。寄席は20日までがお正月、舞台には初席同様に酒樽が積んであって、木戸口にはお正月飾りもそのまま、演者も高座に上がると「あけましておめでとうございます」と挨拶をする。きょうは紙切りの林家楽一さんに注文して、「鏡開き」を切っていただいた。
「弥次郎」柳家小きち/「星野屋」三遊亭わん丈/奇術 ダーク広和/「一目上がり」入船亭扇遊/「長短」古今亭文菊/漫才 風藤松原/「首領が行く!」林家きく麿/「元犬」隅田川馬石/中入り/音楽 のだゆき/「強情灸」橘家圓太郎/紙切り 林家楽一/「すなっくらんどぞめき」柳家喬太郎
喬太郎師匠の“池袋愛”が爆発する高座は爆笑の連続だった。池袋の「い」は「いかがわしい」、「け」は「けがらわしい」。西武池袋線と東武東上線を擬人化して会話させたり、目白に相手にされないから大塚と巣鴨だけが友達、池袋に「侘び」はなくて、あるのは「錆び」だけと自虐的な物言いをしたり。いかにも喬太郎師匠らしい。
地元池袋交通のタクシーに乗って、行き先を池袋演芸場と言ったのに、東京芸術劇場に連れていかれたとか。サンシャインよりも、高さで言ったら豊島清掃工場の方が上だとか。要町のお弁当屋さんのポスターには「ご飯がホッカホカです。おかずはそうとは限りません」「鮭弁当の鮭は鱒です」と正直に書いてあるとか。目白のローソンはナチュラルローソンなのに、要町のローソンは100円ローソンとか。全部本当のことを言って笑わせてくれるのが嬉しい。
魚介系のペットショップに「鯉こく、できます」という看板があるとか。田中米店のポスターには「青い空、白い雲。仲良く泳ぐ鯉のぼり。この爽やかな季節に、あなたの笑顔があれば」と書いてあるとか。純喫茶蔵王のモーニングサービスはコーヒーのお代わりはないのに、なぜかトーストは食べ放題とか。池袋ならではの溢れる魅力を喬太郎師匠が愛情たっぷりに語るのが愉しい。
そして、かつて存在した「すなっくらんど」というフードコートは特別な思い入れをもって再現される。ピラフのターメリックもしくはサフランライスの黄色は「ペンテル?」というような色合いだったとか。とんかつ焼きそばにはロースカツが一切れしか載っていないとか。「生き物バンザイ!」的にゴキブリやネズミが駆け巡っていたとか。
それらは池袋の悪口を言っているのではなく、そういう池袋だからこそ自分は大好きで、今もずっとこの町で暮らしているのだということが、高座全体から伝わってくる。思い切り笑い飛ばすことができるのは、そこに愛があるからだ。こういう落語ができるのも、喬太郎師匠に人間的な魅力があるからだと心底思った。