鈴本十月中席仲日 柳家小平太「居残り佐平次」

鈴本演芸場十月中席仲日夜の部に行きました。主任が柳家小平太師匠の芝居である。さん喬師匠の七番弟子、真打昇進が2018年。明るくて朗らかなキャラクターが印象的な噺家さんだ。

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小平太師匠の持って生まれた明るさが主人公の佐平次に見事にマッチして痛快な高座だった。前半、替り番だと言って勘定を求める若い衆を上手にはぐらかすところ。「替り番?淋しいね。また縁があったら宜しく。ご苦労さん!」。それでは引き下がらず「一段落つけてほしい。お勘定の方を」と言う若い衆に、「トトト…そういうことは聞きたくないね。そういうことを忘れて、心置きなく遊びたいんだ」と言って、湯に行ってしまう佐平次に、若い衆は呆気にとられるばかりだ。

湯から戻ってきた佐平次に「お払いの方を」をすがる若い衆に、「お祓い?神主を呼べいい」といなし、「勘定、勘定、五月蠅いね」。先に帰った4人が大層、この店を気に入っていた、必ず裏を返しにくる、そうしたらこの店は儲かる、君の懐も温かくなる…と言いくるめて、若い衆を説得してしまう話術が鮮やか。

翌朝。「昨夜、お友達は来なかった」と訴える若い衆に、「苦しゅうない。いざまずこれへ。戦は今宵と見た」と佐平次が返すが、もう若い衆は騙されない。「お勘定を!」という強い要請に、佐平次は「わかった。腹を割って話そう。君は心臓は悪くない?大丈夫?お耳を拝借」…「金は無い!」と開き直った。「払わなきゃいけないことは心得ているけど、懐が心得ていない」と平気な顔をする佐平次は度胸がある。

あの4人の友達は「極新しい友達。どこに住んでいるかも判らない」。もう少し強面の若い衆がやって来て、「どうするんだ?!」と凄むと、佐平次は「どうする?どうする?義太夫語りじゃない」とかわし、「成り行きですな。ここに二つの方法がある」と言って、「一つは僕が払わない。もう一つは店が諦める」。何の回答にもなっていないことを平気で繰り出す佐平次、あっぱれである。

居残りとして店で活躍する佐平次はすごい。霞さんのいい人の勝っつぁんへの取り入り方は幇間顔負けだ。ウワァー!あなたが勝っつぁん?あなたに一度お会いしたいと思っていました。霞さんとのことは馬鹿な評判ですよ。ほかの花魁にも「きょうは勝っつぁんが来たわよ」とからかわれていました。それを聞いてトボトボする霞さんにあなたがどんな技を用いているのか知りたいですなあ。

おばさんも言ってます。客は勝っつぁんだけじゃない、商売に実を入れてもらわないと困るよ。すると、霞さんはやけ酒を呷って、三味線を持って唄うんだ。これほど思うに、もし添わざれば、わたしゃ出雲に暴れこむ。霞さんは男嫌いで通っている。なぜ?と訊いたら、霞さんはうなじを真っ赤にして「バカ!」。罪な人だね!男を惚れさす男でなけりゃ、粋な年増は惚れやせぬ。ヨォーヨォー!

陰気な座敷があると、「あの居残りはいないのか?呼べ!」となって、「イノドーン、13番お座敷ですよぉ」。で、派手な股引を履いて踊りながら、「ヨ!スゴイ!」と現れる幇間顔負けの佐平次の姿が浮かぶ。

佐平次が口八丁手八丁で、品川の廓一軒の祝儀をほぼ総取りしてしまうような活躍ぶりに、ほかの若い衆はじめ働いている人たちはさぞ悔しい思いをしたのだろう。それがまた嫌な感じにならず、明るく陽気に愉しく笑える痛快な高座だった。