渋谷らくご しゃべっちゃいなよ、そして立川談笑「慶安太平記」第7話

配信で渋谷らくご「しゃべっちゃいなよ」を観ました。隔月開催の創作落語ネタ卸しの会である。が、エントリーしていた林家きよ彦さんがインフルエンザに罹患し、休演を余儀なくされてしまった。急遽、X(旧Twitter)の渋谷らくご公式アカウントで代演者を募集。すると、一番に手を挙げた立川かしめさんが出演することになった。他にも数名立候補する方がいらっしゃったという。その心意気がすごい!また、今回のレジェンド枠は立川吉笑さんが「ぷるぷる」を口演した。

立川かしめ「BlueBlue」

吉笑さんの名作「ぷるぷる」を意識して「ぶるぶる」、そこからこのタイトルになったのだろう。柳亭燕三師匠が炭酸飲料をブルブルと振るという冒頭の発想、そしてきよ彦さんが罹患したインフルエンザを大きな噺の括りにしたセンスが素晴らしい。だが、それ以上に事前に録音していた音源を使って、かしめさんがネタを飛ばした体裁を取って、心の声を表現するアイデアに感服した。そう、一日で一席を作って、それを高座の掛けることの難しさを逆手に取ったかしめさんに拍手を送りたい。

入船亭遊京「とうふのかど」

夫が「ぷりぷり亭おなら丸」という“嫁の悪口専用アカウント”を作って、SNSで呟いている…それを妻が見つけてしまって、夫の浮気を疑う…。夫は豆腐が大好きで、「豆腐になりたい」という願望があった。その夢が叶い、豆腐の海に埋もれて、自分が豆腐になるというシュールな展開が面白い。妻は麻婆豆腐やすき焼きや豆腐の玉子炒めを作り、その中で二人の思い出を回想するという演出も良い。味噌汁でも赤味噌と白味噌ですれ違っているという夫婦の行方が気になった。

柳亭信楽「腰痛」

一言で表現するなら、パニック落語とでもいうのか。登校途中の久保君と遠藤さんが正面衝突して人格が入れ替わるのは王道だけど、久保君のぎっくり腰が遠藤さんにも移ってしまう。救急隊を呼ぶとその3人もぎっくり腰が“感染”し(もはや感染という表現でいいだろう)…。そこに偶然現われた“ぎっくり腰侍”ことぎくりだ腰太郎という治療者がすべてを救うかと思いきや、彼までもがぎっくり腰になってしまうという…。最後はゾンビや怪獣まで登場し、ぎっくり腰パニックはとどまることを知らないという…バカバカしさが愉しかった。

立川寸志「シースルー武田」

まず、透明人間芸人という発想が面白い。よく訊かれる質問ベスト3、女湯はのぞくのですか?衣食住はどうしていますか?どうして透明人間になったのですか?を軸に笑いのタネを蒔く手法が鮮やか。歌ネタでCCB、崎谷健次郎、ピンクレディーが飛び出し、謎かけもあり。5月10日はひっくり返して、透明(十May)の日。最後に、実はこの漫談が漫才で、相方がいたなんて!秀逸なサゲだ。

立川談笑月例独演会に行きました。「慶安太平記」全9話、きょうは第7話「鐵誠道人」だ。講談で聴いているモノと演出も違って大変に興味深かった。

叙々苑/ろくろ首/中入り/慶安太平記⑦火焔の軍用金 鐵誠道人

生まれながら全身が真っ白という体質の老人が白い装束を纏って、後ろに乞食たちを従えて経文を唱えながら、商家を廻り、お布施を貰う。自称“真言密教の修行僧”だが、それは偽り。自らを鐵誠道人と名乗る男が由井正雪の張孔堂の門下生にいた。

正雪は興味を持ち、座敷に通す。この乞食坊主は七十五と称しているが、実は四十三歳。出された料理は鶏も魚も生臭物であろうが構わず食べる。正雪がこの道場に通う目的を尋ねる。生まれは相州足柄で、百姓の次男坊。幼い頃からこの特異体質ゆえに厄介者にされ、七歳で寺に預けられた。母親だけが優しく「お前もいつか世の役に立ちなさい」と接してくれた。だが、十七歳のときに母は他界。寺を逐電し、小田原へ逃げた。酒、魚、肉、女、仏の道から外れた行ないをしていた。

だが、庶民が苦しんでいるこの世の中は間違っていると思っていた。正雪先生の噂を聞き、これこそが私が求めた道だと考え、門下生になった。政(まつりごと)とは何ぞや、侍とは何ぞや、幸せとは何ぞや。考えるうちに、幕府転覆しかないと考えるようになった。正雪先生の力になりたい。こう鐵誠は言う。

幕府転覆計画を実行するには軍用金が必要だ。正雪先生はどれだけの金をお持ちですか?とストレートに訊く。2万3千両。これでは足りない。鐵誠は「私にお任せいただけないか?」と言って、6千両を渡してもらえれば、20万両にしてお返しするという。これで、寺を建立するための寄進を集め、軍用金を調達する、弟子を二人付けてくれないかと頼み、小林と森田の二人の浪人を従えることになった。

小林と森田も坊主の身なりとなり、托鉢僧として活動する。それから、半年。鐵誠は知り合いの僧侶を言いくるめて、「寺を建立する」旨を寺社奉行と大老に伝え、認めさせた。場所は道灌山に建立するとして、鐵誠は300人の坊主を従えて経文を唱えながら、江戸の町を歩いて廻った。

そして、五月一日の九ツに「火上の行」を実施すると触れた。即ち、鐵誠が一人で火に飛び込み、仏になる。自分一人が地獄に落ちて、大衆の罪を背負うというものだ。寄進の筆頭には「紀州徳川様壱萬両」と記されていた。そして、15万両の寄進が集まった。

無謀なことをと心配する正雪に対し、鐵誠は「挙兵の際に命を捧げるのと同じことです」と答えたが、その後に実は自分が納まる棺と裏の竹藪に抜け道を作って逃げるのだと明かした。「この世を正すのは正雪先生。真っ当な世の中にしてください」と頼む鐵誠に、正雪は「民衆を騙すのはいかがなものか」と言うが、鐵誠の意志は堅かった。

そして、「火上の行」は敢行された。弟子の小林と森田が正雪のところにやって来て、鐵誠から正雪宛ての手紙を渡す。棺に抜け道などなかった。自分は剣術などで力になることが出来ない。だから、こういう手段を取った。民衆の願いを叶えてください。彼らの浄財を生かしてください。亡くなった母は「お前は人の役に立つんだよ」と言っていました。お役に立てたでしょうか。大望を果たされんことをお祈りいたしております。鐵誠道人こと相州小田原浪人、小山田藤吉。こう手紙には書いてあった。

正雪は「馬鹿め!」を繰り返した。そして、集まった18万両のうち、3万両を使って寺を建立し、小林と森田の二人は出家して、鐵誠の菩提を弔ったという。

前回の品川の大砲といい、今回の火上の行といい、人の心を大きく惑わす出来事が次々と起こる。いずれも紀州が絡んでいる。誰か後ろで糸を引いている者がいるのではないか?そう考えたのは、松平伊豆守であった。そして、次回の「挙兵前夜」へと話は続く。楽しみである。