歌舞伎「日本振袖始」~八岐大蛇と素戔嗚尊~

歌舞伎鑑賞教室「日本振袖始」~八岐大蛇と素戔嗚尊~に行きました。きょうは父の日、中村扇雀さん・虎之介さん親子が主演の芝居を観た。扇雀さんが岩長姫実は八岐大蛇、虎之介さんが素戔嗚尊だ。出雲国簸の川川上の場、一幕。

岩長姫が大蛇の生贄として選ばれた稲田姫に襲いかかる。なぜなのか。この芝居を観ているだけではわからないが、プログラムの記述で合点がいった。神話では、高天原から降臨した天照大神の孫・瓊瓊杵尊に、大山祇神が自分の2人の娘を后にしてくれと差し出した。すると、姉の磐長姫(=岩長姫)は容姿が醜かったことから疎まれ、妹である木花開耶姫だけが后に選ばれた。

美しい女性に対する怒りや嫉妬を岩長姫は根本的に抱えていたのだ。ゆえに岩長姫は稲田姫を追い詰めて、一気に丸呑みしてしまう。酒の誘惑に負けて八つの甕の酒を飲みほした岩長姫が、酔って次第に大蛇としての本性を顕していく様子が興味深い。

八岐大蛇の表現方法が歌舞伎らしくて好きだ。素戔嗚尊と戦う場面で、鱗模様の衣裳を着て、顔に恐ろしい隈を取った大蛇の分身が扇雀さん以外に7人現れ、素戔嗚尊へ激しく襲い掛かる。虎之介さん演じる素戔嗚尊と荒々しく立ち廻りをする8人の大蛇に迫力があった。

素戔嗚尊と稲田姫との関係も面白い。素戔嗚尊は岩長姫に奪われた十握の宝剣を探す途中、熱病に苦しむ稲田姫を助けたことで恋仲になった。生贄となる稲田姫の袖に、一振りの名剣を隠した(これがタイトルの日本「振袖」始の由来になっている)上、甕に毒酒を仕込み、八岐大蛇を退治する計画を立てたのだ。

毒がまわった八岐大蛇を相手に、素戔嗚尊が激しい戦いを繰り広げると、八岐大蛇は次第に弱ってくる。そこで、お腹の中にいた稲田姫が袖に隠していた名剣で背中を切り裂き、脱出成功。八岐大蛇のお腹の中にあった十握の宝剣も、稲田姫が捜し出し、脱出の際に一緒に持って出たというわけだ。

これで見事に八岐大蛇を退治し、十握の宝剣を奪い返した。と同時に、もう一つの名剣を「天叢雲」と名を改め、2本の名剣を手にした。素戔嗚尊と稲田姫はハッピーエンドとなって、めでたし、めでたし。歌舞伎鑑賞教室に相応しい分かりやすいお芝居で、とても楽しめた。