隅田川馬石 お富与三郎~与話情浮名横櫛~「与三郎の死」

鈴本演芸場6月中席夜の部七日目に行きました。隅田川馬石師匠の「お富与三郎~与話情浮名横櫛」の連続口演も最終話である。昨夜の「島抜け」が聴けなかったので、果たしてきょうの「与三郎の死」についていけるのか、若干の不安があったが、とんでもない。馬石師匠がこれまでの経緯を簡単に導入として話してくれたので、すんなりと入りこめた。与三郎が、またまたお富と再会するとは!そして、衝撃の結末に美学すら感じた。素晴らしかった。

「饅頭怖い」三遊亭二之吉/「粗忽長屋」桃月庵黒酒/江戸曲独楽 三増紋之助/「看板のピン」林家彦いち/「弥次郎」林家しん平/粋曲 柳家小春/「宗論」春風亭一朝/「厩火事」橘家圓太郎/中入り/漫才 すず風にゃん子・金魚/「へっつい幽霊」古今亭菊太楼/ものまね 江戸家猫八/「お富与三郎 与三郎の死」隅田川馬石

黒酒さん、センス抜群。イキダオレ、まだ始まらないんですか?兄弟同様といっても、所詮赤の他人。紋之助師匠、卓上扇風機。末広、輪抜け、真剣刃渡り、五ツ独楽、風車。彦いち師匠、まったり!国士舘大学の空手部の先輩の掛け声に共感。

しん平師匠、駄洒落の嵐。焼け牛に水。一足、二足の山賊。小春師匠、ぎっちょんちょんに不思議な魅力。梅干しは酒も飲まぬに赤い顔、年を取らぬに皺寄せて、元を正せば梅の花、鶯鳴かせたこともある~。一朝師匠、タブーに果敢に挑戦する問題作(笑)。慈しみ深き~、さあご一緒に!隠れキリシタン落ち。

圓太郎師匠、巧い。チャイナ!ホワイトホース!お前さんところが喧嘩が絶え間ない訳が判ったよ。にゃん金先生、ノーコメント。菊太楼師匠、珍しい型。こんなにコンパクトに出来るんだ、すごい!猫八先生、名人芸。あなたが噛んだ小指が痛い。シマ「ウマ」で、馬石師匠に繋ぐ。

馬石師匠、最終話。捕縛されたお富と与三郎は与田豊前守に裁かれ、お富は無期懲役、与三郎は佐渡へ島流しとなった。与三郎は柴田鉄五郎と寅松と三人で嵐の中、丸太で組んだ筏で島抜けを敢行。与三郎と寅松は越後地蔵ヶ鼻の浜へ流れ着いた。弁慶又五郎に救われ、高崎へ行くが、旅籠で取り囲まれ、与三郎と寅松は別々に逃げた。与三郎が大宮に着いたとき、木更津でお富の旦那だった赤馬源左衛門に出くわす。関東次郎の助太刀もあって、与三郎は源左衛門を討ち果たす。

そして、江戸へ。足は両国横山町の生家へ向かう。両親は達者でいるだろうか?伊豆屋の前に着いても、入ることができない。中から念仏が聞こえてくる。誰かの命日だろうか。やがて、男が出てきた。母方の叔父の田所町で炭薪問屋をしている伊豆屋太兵衛だ。声を掛けると、向こうも気づき、「与三!」と呼ぶ。

佐渡に遠島と聞いたが、大赦か?と問われ、あの地獄から島抜けをしたことを話す。そして、両親に会って一言詫びたいと言うと…。「お前は根からの悪人じゃないことは判っている。会わせてやりたいが、どうすることもできない」。父親は3年前に「お前を心配しながら」死んだ。そして、夫婦養子を採って、伊豆屋は安泰となったが、母親は「実の息子がありながら悔しい」と言って、去年死んだ。

これを聞いて、与三郎は「この世に未練はない。お奉行に申し出る」と言う。すると叔父は「まだ30にもなっていないじゃないか」と言って、炭焼き小屋で働く口を紹介してやるという。そこで真っ黒になって働けば、傷も目立たないだろうし、亡くなった両親への供養にもなるだろうと。そして、その旨を書いた手紙と5両を渡し、人目につかないように行けと言う。命は繋げるだけ、繋げ。死ぬなよ、死んじゃいけないよ!と見送る。

与三郎は高輪から東海道は品川宿、妙国寺前に出る。子どもたちが犬に対して、「盗人!」と呼んで追い掛け回しているのを聞いて、与三郎は自分のことを言われていると思い、身の危険を感じてしまって、ある家の格子に隠れた。

すると、四十見当の男が声を掛ける。追われている?訳を話せ。与三郎はここで捕まったら元も子もないと思い逃げようとする。「逃げるんじゃない!お前、忘れたのか?久次だ」と言う。「与三、生きていたのか」。牢でお世話になった観音小僧の久次親分だ。

佐渡送りになって、島抜けしてきたことを明かすと、「お前はどこまでも悪運が強いなあ」と久次親分。これから伊豆へ行こうと思っていると与三郎が言うと、与田豊前守様に島抜けしたと名乗り出ろと言う。鉄五郎と寅松に唆された、先祖の墓参りも済ませ、未練もない、罪を償いますと言えば、御慈悲ある沙汰が下されて、佃送りで2~3年で勘弁してくれるはずだ、明るい身体になれと言う。

そして、久次親分は女房に会わせると言って、寝ていた女房を起こす。出てきた女房は年増だが、びっくりするほど美しい。そして…「与三さん!」「お富!」。何と運命の再会だ。久次親分の手前、どうしてよいか、まごつく二人だったが、親分の方から気づく。「知っているな!お前が話していた木更津の女というのは、お富のことだったのか!」。久次親分はここで自首を勧めると俺の焼き餅に見える、二人で逃げろと言う。そして、鮫洲の鉄の花会に行くと言って、出掛けてしまった。

残された二人。お富は酒肴の支度をして、「一杯飲んで、憂さを晴らして」と酒を勧める。与三郎は「先のことを思えば、悔しいやら、悲しいやら、涙が出る」。酒を飲んで気が休まると、「何だか妙な縁。木更津で出会って、玄冶店で再び会って、悪いことをしたい放題して・・・楽しかった」とお富が言うと、与三郎も「島抜けして、お前の酌で酒が飲めるなんて、まるで夢のようだ」。

久次親分はお役人にも可愛がられていると聞くと、お富はいい亭主を持ったなあと与三郎が言うが、お富は私を連れて逃げておくれと言う。だが、与三郎は今は一人でも逃げられない身だと言う。だから、お奉行様に申し出て、明るい身体になるのだと。そして、お富は久次親分と一緒に幸せになれと言う。

与三郎は「佐渡では本当に辛い思いをした。生きた心地がしなかった」と言って、横になり、「ありがてえ。生きててよかった」。しばらくするとお富の横で寝入ってしまった。お富は枕元にある脇差に目がいく。見覚えがある。「あの親分さんの…」。そうだ、赤馬源左衛門の脇差だ。お富は鞘を抜くと、その刀は生々しい血潮の跡があった。これで源左衛門を殺したのか。「お前さん、いい悪党になったねえ」。

そして、お富は考える。与三郎がたとえ明日名乗って出たとしても助からない。寝ているところを一思いに刺して、久次親分には済まないが、私も後を追いかける。そうすれば、切られ与三と横櫛のお富で、浄瑠璃にもなるだろう。

堪忍しておくれ!急所をズブリ、一突き。与三郎は笑みを浮かべていたという。惚れた女に二十九にして殺され、この世を去った男は穏やかな顔をしていたという。

お富与三郎、与話情浮名横櫛の読み終わり。あっぱれであった。