大相撲夏場所 横綱としての強さを見せた。照ノ富士が1年ぶり8回目の優勝

大相撲夏場所千秋楽。横綱・照ノ富士が14勝1敗で、1年ぶり8回目の優勝を果たした。去年秋場所に膝の故障で休場し、3場所全休明けの優勝は平成元年初場所の横綱・北勝海以来のことだ。

見事な復活優勝である。序盤戦こそ若干不安のある相撲もあったが、場所が進むにつれて、相撲勘を取り戻し、9日目に平幕の明生に苦杯を嘗めたが、それ以外は本来の力強さを見せて、これぞ横綱相撲!という土俵で勝ち続けた。相手にもろ差しを許しても、両腕で抱えて極めて前へ出る、もしくは小手に振るという取り口で膝の不安を上半身の力強さでカバーした。

去年10月に膝の手術をした。そして3場所休んで回復を待った。膝への負担を減らすために減量をおこない、その後復帰に向けて増量すると、持病の糖尿病が悪化して、調整は苦労が続いたという。本来なら人工関節を入れなければいけない状態だそうで、引退後の日常生活を考えると辞めてもおかしくない。だが、照ノ富士は不屈の精神で土俵に上がり、「横綱の使命」である優勝を決めた。目標は二桁の優勝だという。その責任感に頭が下がる思いだ。

土俵で見せた鬼のような形相は、阿修羅のようにも見えた。勝ち続けてこそ横綱であるという照ノ富士の執念の土俵をあと何場所、何年見られるのか。膝の状態は本人にしかわからないが、下から上がってくる力士の手本になる横綱相撲を少しでも長く取り続けてくれることを願うばかりだ。

関脇の霧馬山が11勝を挙げて、来場所の大関昇進を確実なものにした。大関獲りを意識して、前半戦は「勝ちにいく相撲」が散見されたが、後半戦には本来の巧い相撲が戻って来た。若元春に対して前さばきの上手さから小手投げで勝ち越しを決めた一番や、貴景勝に立ち合いすぐに右を差して一気に攻め込んで10勝目を挙げた一番などは“大関”と言って良い相撲内容だった。長身の北青鵬に対し肩越しの上手を与えずに外掛けで破った相撲や、負けはしたが照ノ富士に横から攻めて半身で苦しめたところなど、3回目の技能賞に相応しい内容だった。大関昇進後も、技能相撲でファンを魅了してほしい。

他の3人の関脇も好成績を残した。豊昇龍が11勝、若元春と大栄翔が10勝を挙げ、先場所に続いての二桁の勝ち星。審判部がこの3人が来場所大関獲りの場所になることを明言したことで、これまで1横綱1大関だった相撲界に再び番付の面でも活気を取り戻すチャンスが到来することになった。関脇が強い場所は面白いと言われるが、来場所はその上をいく次元になるわけで、近い将来、5大関が照ノ富士とともに優勝を争う、新たな群雄割拠の時代を迎えそうだ。

その意味で、貴景勝が8勝7敗でやっとこさ、カド番を脱出したことは、膝の怪我が完治しないでの強行出場だったとはいえ、もう少し頑張ってほしかった。新たな勢力が下からドッと押し寄せているわけで、来場所の奮起を促したい。

平幕の明生が殊勲賞を受賞した。9日目に照ノ富士に対し終始横から攻め続けて金星を挙げた相撲は素晴らしかった。ただ、怪我のために終盤6連敗してしまい、8勝7敗に終わったのが残念だったが、それでも三賞の条件である勝ち越しをクリアして、照ノ富士戦の勝利が評価されての受賞は三賞選考委員会のナイスプレーと言えるだろう。

一方で、朝乃山が再入幕の場所で12勝3敗という、照ノ富士に次ぐ成績を収めたのにもかかわらず、三賞が受賞できなかったのは納得がいかない。確かに、12日目に大栄翔、13日目に照ノ富士と対戦し、負けはしたが、優勝争いに最後まで加わり、土俵を盛り上げた功績は大きい。何でも「元大関だから」という理由で敢闘賞に値しないという判断がされたそうだが、コンプライアンス違反で1年間休場させられ、三段目から這い上がってきた敢闘精神は評価してあげてもいいのではないか。

今場所は十両がハイレベルな優勝争いを繰り広げた。東十両筆頭の豪ノ山と西十両8枚目の落合が共に14勝1敗で、優勝決定戦となり、豪ノ山が優勝した。十両の14勝1敗の優勝決定戦は初めてのことだそうだ。おそらく二人とも来場所は入幕するので、あの強さであれば幕内の相撲に新たな旋風が巻き起こりそうだ。落合は初土俵3場所での入幕、恐るべき19歳である。

というわけで、横綱が場所を引き締め、関脇が土俵を盛り上げ、十両までもが面白いという、素晴らしい場所だった。来場所も楽しみである。