立川談笑「慶安太平記」第1話、そして代官山落語夜咄 立川吉笑

国立演芸場で「立川談笑月例独演会」を観ました。きょうから毎月、9回シリーズで「慶安太平記」を演るというので、おっとり刀で駆け付けた。家元、立川談志師匠が講釈から移植して演じていたが、それはほんの一部だ。「善達の旅立ち」と「吉田の焼打ち」の2席のみ。これは弟子の談春師匠が受け継いでいる。だが、談笑師匠はそれを踏まえつつ、全9話で完結させるという。これは毎月通わねばなるまい。楽しみだ。

風呂敷/愛宕山/中入り/慶安太平記 第1話 由井正雪と紀州公

由井正雪は駿府の出身である。幼名を藤松。親は紺屋、染物と百姓の両方を手掛けて、小作人を何人も抱える豪農の次男に生まれた。子どもの頃から利発で、読み書き算盤はすぐに覚え、武術も剣術、柔術、馬術などどれも長けていて、楠木不伝が免許皆伝、13歳にして文武において右に出るものがいなかった。

自分の才能は自分がよく分かる。世に出る人間だと自覚している。駿府を出て、西国を経めぐり、文武両方において磨きをかけて成長していく。辿り着いたのが紀州和歌山。ここで徳川頼宣に拾われる。学問においては歴史、地理、天文、ありとあらゆることに通じているし、武芸十八般においても圧倒的に優れている。頼宣に大変に気に入られ、500石で取り立てるという話にまでなった。

だが、老中の安藤帯刀がこれを止めた。これからは天下泰平の世の中になる。戦国時代のような下剋上にはならない。所詮、百姓の息子を召し抱えるというのは筋違いである。これからは血筋を大切にしなければいけない。こう、頼宣に説いたのである。

正雪は紀州を去ることにする。だが、いずれ俺は世に出る人間だという大望は忘れていない。四国に渡り、やがて大坂に出る。観音堂で一夜を過ごそうと籠ったとき、そこで出会った人物とは?…というところで、第1話が終った。

第2話「市ヶ谷の闇討ち」以降が楽しみである。

帰宅して、配信で「代官山落語夜咄 立川吉笑」を観ました。「ぷるぷる」「一人相撲」&お楽しみ&広瀬和生さんとのトークというプログラムになっていたが、ネタ出しの2席は本人いわく「僕のファンなら何度も聴いたことがあると思うので」と言って、お楽しみは「この2席のリミックス」をお届けするという。

先日、ある放送作家と吉笑さんが雑談して、「井戸の茶碗」がもし三題噺だったらと仮定して、お題を「屑屋」「仏像」「一人娘」として、もう一度そこから落語を創作するという企画、つまりリミックス落語を創るというのは面白いね、ということを話したそうだ。そして、「ぷるぷる」や「一人相撲」は三題噺で創作したものではないが、それを三題噺と仮定して三つのお題を出し、もう一度新しい新作落語、リミックス落語を創るという。お題は予めお客様から募ったそうで、そこから創作されたリミックス落語が実に面白かった。

「一人相撲」は、お題が「キラキラの着物」「回向院」「ランナー」になって、それで創作された落語が「エコーイン」。東京マラソンを盛り上げるために、テレビ局の演出で回向院で松平健がマツケンサンバを踊るという企画になっていた。ところが手違いで衣裳が南千住の回向院に届いてしまい、スタッフは大慌て。派手な衣裳を求めてADが奔走し、お江戸両国亭で寿輔師匠の派手な着物に目を付ける。だが、寿輔師匠は大切な着物だから貸せないと断る。

ADがうなだれていると、前座さんが僕の着物で良かったらと、紺の地味な着物を貸してくれる。駄目で元々と松平健さんに見せると、気に入ってくれ、これでマツケンサンバを踊ってくれることに。地味なマツケンサンバになると期待していなかったが、奇跡は起きる。回向院の桜が強風に吹かれて、地味な着物に桜吹雪が巻き付き、派手な演出効果になったという…。

「ぷるぷる」は、お題が「んぱんぱ」「粘着質」「初恋」になって、それで創作された落語が「きき」。清八は貧乏なので、腹話術の人形が買えなくて、自分の利き手である右手を「きき」という名前の人形に見立てて、それで腹話術を披露したら、これが斬新!ということで、人気を得る。

清八は「きき」に対して、ある感情を抱いた。恋愛感情だ。自分の身体の一部に恋するという禁断の恋。だが、思い切って告白すると、「きき」は自分も好きだと答えてくれた。だが、清八はミー坊に浮気してしまい、「きき」とは友達という関係で和解する。

順風満帆だった清八と「きき」だが、その人気に嫉妬した同業者が清八の右手を丹波の松ヤニで固めてしまう。右手を封じられて失意の清八だったが、「きき」の「私はここにいるよ。諦めたら駄目だよ」という声が聞こえてきた。右手を使わない清八の高座は、かえって「何もない方が人物の姿が浮かぶ」と評判を呼び、これが落語の起源となった…。

それでも腹の虫が収まらない同業者は清八の唇に松ヤニを塗ってしまう。だが、それでもめげずに芸を続けるとそれは…「ぷるぷる」由来の一席となった。

落語への探求心がどこまでも旺盛な吉笑さん。去年のNHK新人落語大賞を受賞したときのライバルだった、林家つる子、三遊亭わん丈の二人が来年3月に抜擢真打昇進が決まった。吉笑さんの真打トライアルが今年7月から5か月連続で博品館劇場で開催される。益々、目が離せない!