よってたかって春らくご
銀座ブロッサムで「よってたかって春らくご」を観ました。昼夜公演なので、両方観た。売れっ子ばかりなので、顔を揃えるだけでも大変だが、昼夜でバランスが取れた顔付けとなっていて、定員900人のホールが昼夜とも完売になっているのはすごい。
神田伯山先生は「天保六花撰 玉子の強請り」。御数寄屋坊主として悪事を働く河内山宗俊だが、正義の味方として活躍するところが素晴らしい。ダークヒーローとでも言うべきか。いずれは娘の婿として迎えてやるからと10年以上無給金で働かされた挙句に、夜這いの濡れ衣を着せられて加納屋を追放された孫六の悔しさを晴らして、立派に独り立ちできる資金を調達してあげる、河内山の悪知恵が痛快だ。
三遊亭萬橘師匠は「壺算」。兄貴分の“買い物上手”は他の噺家と一味も二味も違うのが愉しい。ひたすら「貧乏なんです。負けてください」と土下座して、瀬戸物屋の番頭が仕方なく値引きするという戦術。そして、3円で買った一荷の甕を二荷の甕にしてしまうのも、兄貴分は何も企まない。ただ番頭が自滅していくのを脇で見守っているだけ。そして、予想外のサゲ!萬橘師匠を侮るなかれ。
林家きく麿師匠は「殴ったあと」。温泉宿の仲居・アケミさんが浪花節に乗せて語る男運の悪い自分の半生が可笑しい。どんなにDVされても、「殴った後は優しいの」で、アケミさんは納得しているらしい。だから普通だったら笑いごとでは済まされないDVがテーマでも、笑いに昇華しているのが、きく麿師匠のすごいところだ。それと、結構浪花節がそれっぽい。一度、三味線付きで演じてほしいなあ。
桃月庵白酒師匠は「百川」。百兵衛さんが、とってもキュート!「あんでがす?」「アンデス山脈?」の空耳も愉しいが、やっぱり百兵衛ペースに翻弄される河岸の若い衆、中でも「主人家の抱え人」を「四神剣の掛け合い人」と取り違えた知ったかぶりの男の可笑しさが良い。クワイのきんとんの丸呑みの件、百兵衛さんは洒落が判っていて、呑み込んだのではないかとも思える。
春風亭一之輔師匠は「饅頭怖い」。先日、ネタ卸ししたという情報を得ていたが、未だ聴いたことがなかったので嬉しかった。怖いモノは何かという問いに、「戦争…差別…やっぱり人間かな」と答える男が大好きだ。SDG‘sの世の中でムカデに足が百本もあるのは無駄とか、ジェンダーフリーの世の中でカブトムシの雄にだけ角があるのは良くないとか、とっても好き。そして、饅頭のバリエーションの豊富さも良い。かるかん、ひよこ、萩の月、阿闍梨餅、埼玉銘菓十万石饅頭!
三遊亭兼好師匠は「花筏」。巡業先で、偽花筏を演じる提灯屋が、大飯を食らい、大酒を飲み、かっぽれを踊っているという証言を勧進元の調査によって得ているところが可笑しい。千秋楽結びの一番、花筏・千鳥ヶ浜の一戦、裁く行司の式守伊之助まで涙をこぼしているという…。
桂宮治師匠は「やかん」。もうちょっと大きめの噺が聴きたかったというのが本音だが、居並ぶメンバーの中で自分の立ち位置を考えたのだろう。魚の名前の由来のところ、コチで桂平治門下でち太郎、楽輔門下に移って小痴楽と笑いを取っていた。小笑師匠の名前の由来は…内緒です(笑)。
三遊亭白鳥師匠は「富Q」。先日、橘蓮二さんのプロデュース「白鳥残侠伝」で、笑福亭茶光さんがこの噺を演って、とても良かったが、その本家本元を聴けて嬉しかった。売れないで燻ぶっていた頃の自分を金銀亭Q蔵に投影し、コンプレックスをパワーに変換する自身への応援歌にも聞こえた。また、池袋演芸場には特別な思い入れがあることも感じる。演芸界の内輪ネタを挿入して笑いを取る手法を白鳥師匠はよくするが、これも噺家仲間から愛されているからこそ、許されるのだなあと思った。