権太楼ざんまい、そして「落語の仮面」第3話
日本橋公会堂で「権太楼ざんまい」を観ました。僕にとっては、去年8月の鈴本演芸場「さん喬・権太楼特選集」で「一人酒盛」を聴いて以来の久しぶりの生の高座である。
去年11月に体調を崩され、寄席やホール落語などを一切休演していた柳家権太楼師匠は、体調が回復して、今年1月下旬あたりから少しずつ高座復帰をしていた。ご本人のきょうのお話によると、入院していたが、点滴とステロイドの投与だけなので、12月からは自宅療養をしていたという。
高座にあがった師匠は「少しふっくらされたかな」という印象を持ったのだが、師匠の説明によれば、「ステロイドをまだ10ミリグラム投与しなければいけなくて、それでむくんでいます」とのこと。それに、これをきっかけに煙草を止めたという。その分、それまでは見向きもしなかった甘い物を欲するようになり、例えばタカセの洋菓子をまるごと食べちゃったり、それに相変わらずお酒は飲んだりしているので、「5キロ太りました」。
お休みをして自宅にいた約50日間、自分の持ちネタを毎日2席ずつさらうことを自分に課したという。「いわば、権太楼100席です」。それを自分のホームグラウンドとも言えるこの「権太楼ざんまい」の復帰の会で無作為に2席演ろうと意気込んだそうだ。
ただ、若干自信がないので、「一席は近頃頻繁に掛けている『質屋庫』を演らせてください」。その代わり、もう一席は挑戦したいと宣言した。で、弟子のさん光さん(9月に福多楼という名前で真打に昇進)が出てきて、その100席の演目をナンバリングした紙を持って登場した。
お客さんが無作為に番号を5つ叫んだ。23番「らくだ」、83番「真田小僧」、19番「大工調べ」、15番「井戸の茶碗」、1番「死神」。その中から権太楼師匠は「じゃあ、『大工調べ』を演ってみましょうか。大丈夫かな?自信ないな。でも、やります!」。権太楼師匠の落語への飽くなき情熱を感じた。
一席目は「質屋庫」。おみつさんが竹筒にカラカラストンとへそくりして買った黒繻子の帯が、どうしても家の勘定が足りなくて質屋に入れられ、病に伏せたときに出戻りの妹に形見に渡したいが、取り戻せないという怨念が帯に籠る…という旦那の妄想を番頭が怖がるという部分を権太楼師匠は非常に愉しく演じていた。劇中劇っぽいところで聴き手に錯覚させるという点において、噺家としてやりがいがあると師匠はおっしゃっていた。ガッテン!小僧の栗饅頭の一件も、熊さんの酒樽と漬物樽の一件も面白い。笑い所の多い噺で大好きだ。
そして、「大工調べ」。権太楼師匠の父親が大工で、また母親の父、つまりは祖父が棟梁だったというマクラで、その江戸っ子の血が師匠にも流れているのだなあと思う。棟梁の啖呵のべらんめえは歯切れが良いというのとは、ちょっと違う権太楼独特の味わいのあるもので、かえって本当の江戸っ子はこんな啖呵を切っていたんではないかと思えるリアリティがある。あまりに見事な綺麗な啖呵だと芝居がかっていて嘘くさく感じるのだ。あと、その後の与太郎が「毒づけ!」と言われて、頓珍漢な言葉を連発するところも、間抜けでとても可笑しいが、権太楼師匠の人柄によって可愛らしくも思える。渾身の高座だった。
帰宅後、配信で「弁財亭和泉の新挑戦!『落語の仮面』全10話」の第三話を観ました。「時そば危機一髪」は聴いているようで、そんなに聴いていなくて、最初からとても新鮮だった。
三遊亭花が前座修行を3年間、叩かれないように自我を捨てて勤めた後、二ツ目に昇進。その披露目で彼女らしいユニークな新作を演じて注目を集めると、また大都芸能の横槍が入って、寄席に出られなくなってしまう。だが、師匠の月影先生は「1年に1回、あなたにはチャンスがある」と言って、NHK新人落語大賞への挑戦がメインになるのが第3話だ。
その予選で披露した「時そば」は従来の型から外れたとてもユニークな改作で周囲の度肝を抜く。和泉師匠は花の演じる、そのお姫様バージョンの「時そば」を実にイキイキと演じて、「なるほど、こういう新作落語家がいたら面白いよなあ」と思わせてくれるところが流石だ。
で、本選に進出した花だが、先輩二ツ目の柳家ミミの策略で劇薬を飲まされ、喉に支障をきたしてしまう。だが、そんなことでは挫けない花は、お姫様の婆やの一人芝居でさらに新しい「時そば」を演じてプロデューサーやディレクターたちの喝采を浴びる。またまた大都芸能の横槍で優勝は逃したが、落語ファンたちの花の評判は高まる…というストーリー。
ここでも、和泉師匠の演技力が発揮されていて、婆やの一人芝居が実に面白い。予選のときのお姫様バージョン同様、これは凄い!と思わせるリアリティがあって、それは一重に和泉師匠の演じ分けの素晴らしさにあるのだと頷ける。
三遊亭白鳥原作の素晴らしさは勿論なのだが、それを「和泉落語」に見事に変換しているところは、第1話、第2話同様に和泉師匠の類稀なるセンスを感じたのだった。