花形演芸会、そして談笑一門前座勉強会

「花形演芸会」に行きました。国立演芸場が毎月主催し、1年間(去年4月から今年3月まで)の出演者の中から、大賞、金賞、銀賞を決める、実はコンクールになっている演芸会だ。令和3年度の大賞は音曲の桂小すみさんが選ばれた。さぁ、令和4年度の大賞に輝くのは誰か。その楽しみは別に置いておいて、きょうの感想を書いてみたい。

「無学者」春風亭いっ休/「狸の化寺」笑福亭希光/「紙入れ」三遊亭好一郎/音まね こばやしけん太/「景清」柳家㐂三郎/中入り/「うつけもの」三遊亭王楽/漫才 風藤松原/「荒川十太夫」神田伯山

希光さん、上方落語の珍品。随所に鳴り物が入る、いわゆるハメモノだが、今回の噺ではその必要が果たしてあったか、は疑問だ。まあ、上方落語の特徴だからあっても悪くはないが。小噺を膨らませたような、非常に単純明快な噺で、最後が「金玉落ち」という。これも、ご愛嬌。

好一郎師匠、艶笑噺に全くなっていない。間男が見つかったか、見つからなかったか、ドキドキする新吉と、その上をいく肝が据わったおかみさんが面白いのに。新吉とおかみさんが「やったりとったり」とだけ地で済ませて、すぐに旦那が帰って来て戸を叩くという…。はあ?おかみさんの色仕掛けとか、男と女の駆け引きとか、全く描かない。これでは気の抜けた風船だ。

けん太さん、すごい!電動剃刀、掃除機、パソコンのクリック、窓拭き掃除、心臓の音…、これらをすべて自分の口のみを使って音を出して表現する。素晴らしい!トロンボーンの「明日があるさ」も良かったし、炒飯を調理する音というのも良かった。最後は映画「スターウォーズ」をそれまでの音を集大成して表現していて、ネタの構成も素晴らしい!

㐂三郎師匠、熱演。ただ、この噺の肝は一流の木彫り師だった定次郎が失明したけれど、もう一度目が明いて、後世に名を残す作品を彫りたいと願う心である。田嶋の旦那の温かい励ましもあり、その願いが叶った喜びは一入だと思う。厳しいことを言えば、その定次郎の心理までは描けていなかった。赤坂の日朝様にお参りしたが駄目だったので、上野の清水観音に100日の願掛けをしたら、目が明きました、「おめでたい」お話でございます、で終わらせてほしくないと思った。

王楽師匠、ゲスト出演。自作の新作らしいが、いただけなかった。ギャグをいっぱい並べてみましたという構成で、何のストーリー展開の妙味もない。スラスラと立て板に水の高座で、客席を笑わせて沸かせるテクニックをお持ちなのは認めるが、それだけではお客の心は奪えない。こういう落語が好きな人もいるだろうから、否定はしないが、僕は個人的に好きになれない。

風藤松原さん、面白い!実に緻密に計算された台本と、ボケの松原さんとツッコミの風藤さんの阿吽の呼吸が素晴らしい。王楽師匠の新作落語も同様に緻密にギャグの配置が計算されている台本だが、ある程度リアリティが求められる落語とボケまくって笑わせてなんぼの漫才の違いなのかとも思う。それと、一人芸と二人芸の違いもあると思う。続けての高座だったので、余計にそのことを思った。

伯山先生、感動。騙されて 心地良く咲く 室の梅。“偽り”続けることによって赤穂義士に敬意を表するという、五両三人扶持の下級武士の荒川十太夫の矜持に思いを馳せた。貧乏暮らしでありながら、楊枝削りなどの内職をして金を拵え、6年にもわたり物頭役の身なりを整え、供の人足を雇い、忌日忌日に墓参する健気な心に感涙する。また、その仔細を聞き、200石の物頭に取り立てる久松隠岐守の差配も素晴らしい。18日に三鷹の独演会でも聴いたが、何度聴いても良い読み物は良いなあと思った。

夜は神田連雀亭に移動して、「ぶつかり稽古~談笑一門前座勉強会」に行きました。談笑一門の4番弟子の笑えもんさんと5番弟子の笑王丸さんの二人の勉強会だ。通常は毎月平日昼間にらくごカフェで開催している会で、二人の前座が2席ずつ演り、助演の吉笑さんが1席演じるのがパターンなのだが、今月はらくごカフェの会場を押さえられなかったので、連雀亭で開催することに。ただ、連雀亭は二ツ目のための小屋なので、変則的に吉笑→笑えもん→中入り→吉笑→笑王丸という特別プログラムとなった。

笑えもん「鮫講釈」。肝心の五目講釈の部分が、モゴモゴと口ごもる感じで、よく聞き取れないのは致命傷。まだ連雀亭には演者と客席の間にアクリル板が置かれている関係もあるかと思うが、あとで吉笑さんが「もっと大きな声で演らないと」とおっしゃっていたので、やはりモゴモゴだったのだと思う。赤穂義士伝~大岡裁き~源平盛衰記…、と次々と演題が変わっていくのが面白いのに、口ごもるから、いつの間にか変わっているという感じで、それが自信の無さから声が小さくなることも加わって、「頑張れ!」と心の中で思った。口跡鮮やかに決まってこその噺なので、そこは何度も稽古して自信をつけていってほしい。

笑王丸「断捨離」。友人が酒とつまみを買って遊びに来たが、その男の部屋にはフライパンも、鍋も、冷蔵庫も、いや本当に何もなくて、ビックリという新作。いわゆる“ミニマリスト”という人種で、何もない生活を送っているという。普通、机とパソコンくらいはあるだろうと訊くが、モノは地べたに置くから要らない。洋服も着た切り雀で、汚くなると新しいモノを買ってきて、古いモノは棄てるという徹底ぶり。本当に何もなくて、「俺は日本一のミニマリストだ」と断言する。ただ、可笑しかったのはDVDプレーヤーだけはあるという。中に入っているDVDソフトも一枚だけ。それが「八時だヨ!全員集合」の録画。この番組の中にバラエティー、音楽、ドラマ、さらにニュースまでもが詰まっているから、これで満足しているという…。サゲはネタバレになるので書かないが、いかにもミニマリストらしくて笑った。センスあるなあ。

助演の吉笑さんは「親子酒」と「舌打たず」の二席。自分も前座時代、笑二と二人で前座勉強会を高円寺で開いて切磋琢磨した。吉笑さんは1年5カ月で二ツ目に昇進したけど、前座時代から周りのライバルに負けてなるものか!と貪欲に落語と取り組んできたとおっしゃっていた。その積み重ねが、今日のご活躍の礎になっているのだと思う。二人の前座さんにも、談笑一門という自由な環境の中で、貪欲に勉強を積み重ねていってほしいと思った。