新歌舞伎十八番の内「船弁慶」、そして電撃Ⅱ

歌舞伎座で二月大歌舞伎第二部を観ました。中村魁春、中村七之助、中村雀右衛門の三人による「女車引」を楽しんだ後、五世中村富十郎十三回忌追善狂言「船弁慶」である。富十郎丈が当たり役とした演目で、前半を静御前、後半を平知盛の霊を演じるのは、富十郎丈の息子の中村鷹之資。初役で挑む舞台だ。

静御前の艶やかさと悲しみ、知盛の凄みと豪快さを富十郎丈は鮮やかに演じ分けたという。鷹之資は父が愛用した静御前の衣裳、知盛の長刀で臨んだ。「洗練された動きの中で、義経への静の思いが溢れ出る“都名所”の舞、その切なさから転じての知盛の義経への憎しみ。滅亡した平氏の怨念を背負った知盛は亡霊であり、ただ強いだけではいけない。一朝一夕でできるものではなく、一生をかけて追い求めます」と抱負を述べている。

静御前。兄の源頼朝に謀反の嫌疑をかけられ、都を落ちて西国を目指す義経一行に同道していた静御前だが、摂津国尼ヶ崎大物浦で船出を待つ際に、弁慶の進言により、静御前は都に戻るように言われる。

落人の身であるのに、女子を伴って旅をするのは世間に対して憚りがあると義経は言い、都で再会の時を待つように諭される。これには納得した静御前だが、悲しみは隠せない。盃を交わして名残を惜しむが、静御前の憂いを気にした弁慶は門出を祝って舞を舞うように勧める。静御前は義経から烏帽子を借り、かつて堀川御所で舞った都名所を詠みこんだ舞を舞う。

春の曙白々と 雪と御室や地主初瀬 花の色香に引かされて 盛りを惜しむ諸人が 散るを厭うや嵐山

哀愁と妖艶がミックスしたような、静御前の魅力が全面に出ていたように思う。

平知盛の霊。義経一行の船に激しい風がにわかに吹き付け、波が高くなる。船は一向に進まない。これは義経に滅ぼされた平家一門の亡霊たちの仕業だった。

とりわけ大将の知盛の霊が、凄まじい勢いで義経に迫って来る。太刀を抜いて応戦する義経だが、知盛の霊はなおも襲いかかって、船を波間に引きずり込もうとする。弁慶は数珠を揉んで一心不乱に祈り伏せる…。最後は流石の知盛の霊もなす術もなく立ち去る。

知盛の霊の花道の引っ込みは、渦潮とともに水底へ姿を消す様子を表しているそうだ。妖気と迫力に満ちた知盛の霊であった。

夜は西巣鴨に移動して、「電撃Ⅱ」に行きました。一緒に前座修行をしている仲間で結成した5人グループ「電撃」が、全員二ツ目に昇進(八楽さんは年季明け)したのをきっかけに「電撃Ⅱ」として新しい活動に入った。

メンバーは去年5月に二ツ目昇進の柳家小ふねさん、去年11月に二ツ目昇進の春風亭だいえいさん、桃月庵黒酒さん、三遊亭ごはんつぶさん、そして年季明けの林家八楽さんだ。

小ふねさんが二ツ目に昇進したときに、5人が並んで他の4人が口上を述べたので、きょうは逆に小ふねさんが4人について各々口上を述べるという、「逆口上」というスタイルを取ったのが面白かった。4人を褒めるというより、プライベートでのエピソードや前座仕事のしくじり等を面白く聞かせた。

「鈴ヶ森」柳家小ふね/「西遊記がやりたくて」三遊亭ごはんつぶ/「粗忽長屋」桃月庵黒酒/中入り/口上/紙切り 林家八楽/「鹿政談」春風亭だいえい

小ふねさんは、相変わらずフラで笑わせてくれる楽しい高座。特別なクスグリはほとんど無いんだけど、その佇まいからして何か可笑しいから得だ。

ごはんつぶさんは、このメンバーの中では唯一の新作派かな。香盤でいうと一番下なのに、このチームをまとめているリーダー的存在(これは他のメンバーも認めている)でもある。文化祭の演劇で担任の教師だけが「白雪姫」でも「ハリーポッター」でもなく、「西遊記」をやらせたがるという思い入れが可笑しい一席だ。

黒酒さんは、落ち着いている。貫禄がある。そして、上手い。体形だけでなく、落語も師匠白酒に似ている。行き倒れを見つけた男は粗忽だが、なぜか熊さんの方は冷静という演出は初めて聴いたが、とても面白かった。

八楽さんも師匠であり、父親である二楽師匠によく似ている。5年前座修行して、すっかり高座度胸もついており、切る作品も優れていて、安定感がある。きょうはハサミ試しで文金高島田の花嫁。注文で、お花見、雛祭り、レッサーパンダ。どれも良い出来だった。

だいえいさんは古典一本槍のようだ。真っ直ぐな高座で気持ちが良い。どっしりと構えて、本寸法に古典を演じる。こちらも安定感があった。豆腐屋主人が正直に奉行に対して、犬と間違えて鹿を殺してしまった経緯を述べるところ、芝居掛かりになるのが、とても可笑しかった。遊び心もあるのが良いね。

兎に角、楽しみな5人だ。次回の「電撃Ⅱ」は6月10日。是非、足を運びたい。