兼好・萬橘二人会、そして集まれ!信楽村
とみん特選小劇場「兼好・萬橘二人会」に行きました。三遊亭兼好師匠と三遊亭萬橘師匠という組合せはここ数年増えてきた。五代目圓楽一門会でこの二人が実力と人気で突出しているから、当然のことかもしれない。二人の笑いのタイプが違うのも魅力だ。涼しい顔してチクリと社会を風刺する兼好師匠。お客さんの反応を過剰に気にしているふりをしながら、自虐的な笑いを取る萬橘師匠。だが、二人とも従来の古典に対して、自分なりの解釈をして工夫を加えているという点では共通している。
兼好師匠は「一分茶番」と「二番煎じ」。田舎芝居で花形役者だったと嘘ぶく権助の訛りのある芝居台詞が愉しい。ちょうちんぶらのひちだんめ、そうです、忠臣蔵の七段目。権助のお軽とどんどろ坂の茂十の由良助の掛け合いに笑ってしまう。
「二番煎じ」は一の組のわいわいがやがやが実によく描けている。月番、黒川の先生、近江屋さん、鳶頭、宗助さん。お能の黒川先生の火の用心、口三味線の入る近江屋の火の用心、吉原仕込みの鳶頭の火の用心、皆素敵で皆良い。火の番小屋に戻ってからの、猪鍋を囲んでの酒宴、高砂や、木遣り、小唄、都々逸と実に賑やかな風景が活写される。♬わたしゃお前に火事場の纏、振られながらも熱くなる~。
萬橘師匠は「堪忍袋」と「大師の杵」。地噺である「大師の杵」は萬橘師匠オリジナルのギャグが満載で沸かせる。「お上人様に恋い焦がれてしまった」が「保証人がいないから借金が借りられない」となる空耳が何とも楽しい。
「堪忍袋」の夫婦、大家が言うように、仲が悪いから喧嘩するのではなく、仲が良すぎて喧嘩になるのだなあと思う。梅干しは健康に良いから毎日出していると主張するお崎さんに対し、梅干しの一夜干しやストロガノフといった梅干しフルコースを三食に出されては堪らないと嘆く八五郎。夫婦喧嘩は犬も食わないとはよく言ったもんだ。
夜は高田馬場に移動して、「集まれ!信楽村」に行きました。柳亭信楽さんの月一回の勉強会も段々と定着し、過去最多来場者数を記録したとか。「最初は4、5人しか集まらなかった。これだけ集まっていただき、感無量です」と言う信楽さんだが、当初の目的である「勉強の場」という精神を忘れないのが良い。
「六尺棒」「市長室」「二番煎じ」の三席だったが、新作ネタ卸しの「市長室」が白眉だった。ご本人は「自信がない」と弱音を吐いて不安そうだったが、実際に高座に掛けてみると、客席は爆笑の渦。演り終えた後は、「良い出来である」確証を客席の反応から得たのであろう、笑顔を取り戻していたのが印象的だった。
主人公はある市の市長。クリーンで透明性のある市政を打ち出したいがために、市長室をガラス張りにして、自分の行動はカメラによってYouTube配信しているという力の入れよう。
なのに、「あの談合で口利きをした見返りの裏金が振り込まれていない」とか、「その金がないと次の選挙で票を買うことができない」とか、「あの違法賭博の件はちゃんと揉み消してくれたか」とか、いちいち秘書に確認している裏腹な可笑しさがこの新作の魅力だ。
金メダルを獲得したフィギュアスケート界のプリンスを招き、名誉市民にしたいと言うのだが、その理由はフィギュアにはジェンダー感があるから。「相撲や柔道、野球は所詮男のスポーツだから、ジェンダー感がない」と主張し、ジェンダーを標榜したいのに、ジェンダー派からは反発を食らいそうな理屈を並べる危うさが実に皮肉で面白い。反論するプリンスに対し、「君はオカマか?」とする市長、ますます市民の反発に追い打ちをかける創作センスが素晴らしいと思った。
信楽さんはこの新作を創るにあたって、相当言葉選びに慎重になったそうだ。お客様が引いてしまうと元も子もない。だが、この主人公の市長の危なげな発言で笑いを産みたい。その匙加減、バランス感覚が絶妙なところが、信楽さんの逸材たる所以だと僕は思う。