SANEMORI、そしてかけ橋・松麻呂定例研鑚会

初春歌舞伎公演 市川團十郎襲名記念プログラム「SANEMORI」に行きました。歌舞伎座の正月興行は空席が目立っているのに、こちらの新橋演舞場は連日大入り満員だという記事を読んだ。ジャニーズ事務所のSnow Manの宮舘涼太が出演するというので人気なのは判っているし、実際きょうも若い女性客がほとんどだったので、それはそうなのだろう。

だが、この公演、非常に面白くて、歌舞伎初心者にも分かりやすく作られているというのも勝因の一つではないか。基になっているのは「源平布引滝」(並木千柳・三好松洛作)で、その二段目「義賢最期」と三段目「実盛物語」を巧くつなぎ合わせ、河竹黙阿弥作「老樹曠紅葉直垂」をエンディングに持ってきた。石川耕士さんの筆による優れた脚本の成果だと感じた。

で、人気アイドルの宮舘涼太が義賢とその息子の義仲の二役を勤めて、ストーリーの重要人物になっている。プロローグで俱利伽羅峠で勝利を収めた義仲として登場し、父・義賢に思いを馳せ、舞台が20年前にプレイバックしての「義賢最期」。そして、エンディングでまた北陸を舞台にした源平の合戦に戻る。勿論、タイトルにあるように團十郎演じる実盛がストーリーの軸ではあるが、宮舘涼太の演技もこの公演に大いに貢献している。

でも、僕が一番面白いと思ったのは、児太郎演じる小まんとその周辺の人々の人間模様だ。小まんの夫・折平は実は義賢の家来の多田蔵人だということが判ると、俄然源氏の味方として小まんは動き出す。源氏のシンボルである白旗を守ろうと必死になるのだ。義賢は最期に、小まんに葵御前とお腹の中の子ども(義仲)を託すと同時に白旗も託した。

それは一旦、平家に奪われそうになるが、取り戻し、琵琶湖に飛び込んで平家の御座船に助けられる。また平家と戦うことになるが、團十郎演じる斎藤実盛(実は源氏方)の咄嗟の機転で、腕を切り落とされて白旗とともに湖に沈む。

この白旗を掴んだ腕を、何と小まんの息子・太郎吉が拾うのだ。何という因縁か。小まんの父親・九郎助の家では義賢の妻・葵御前が匿われている。実盛は清盛の命令で九郎助の家に行き、「葵御前が産む子供が男なら、殺せ」というミッションだ。だが、実盛は実は源氏方。葵御前は小まんの腕を産み落としたという強引なことを言って、問題を押し切ってしまう。これも小まんの執念か。

さらに、そこに小まんの死骸が運び込まれ、その腕をくっつけると何と!一瞬息を吹き返すのだ!ミラクル!そして、太郎吉に「白旗は絶対に守れ」と遺言を遺す。さらに面白いのは、実盛と共に来ていた瀬尾十郎が実は小まんの本当の父親だったという事実が発覚!瀬尾は太郎吉に自分の首を討たせ、手柄を立てさせて、源氏の一味に引き取ってもらう。それが後に義仲の家来となり、手塚太郎を名乗るという展開。

いやはや、面白いし、正味2時間30分の芝居はカーテンコールあり、スタンディングオベーションあり。客足が遠のいている歌舞伎の新しい道筋を見たような気がした。何もジャニーズを毎回出せと言っているのではないが、古典の演目を色々工夫して新風を吹き込むのは良いことだ。

夜は神保町に移動して、「春風亭かけ橋・神田松麻呂定例研鑚会」に行きました。去年、二ツ目に昇進したフレッシュなコンビが隔月でらくごカフェで開催する意欲的な会だ。

かけ橋さんは「千早ふる」と「天災」。知ったかぶり、というのは、「なまじ」中途半端に知っていて誤魔化しが効かないような人のことを言うというマクラに頷いた。千早太夫が全盛の花魁だったのに、3年で乞食になったというところで、「なれるんだ。3年で二ツ目から前座になる人だっているんだから」と、自分のことを笑いに昇華して、客席から拍手が起きるのが何か嬉しかった。

「天災」も八五郎がいい。紅羅坊名丸先生を訪ねるのに、名前が出てこなくて、煙草屋で「ベ!ベだよ!・・・ベラ?ベム?妖怪人間じゃない・・・べらぼうに怠ける」とパーパー捲くし立てるのが楽しい。先生が「道」を説いても(このクダリは初めて聴いた)、さっぱり分からない八五郎に対し、都々逸で教えを伝えようとしているのも面白かった。

松麻呂さんは「慶安太平記 正雪の生い立ち~紀州公出会い」と「白隠禅師」。正雪が紀州で徳川頼宣と出会い、武芸、兵法、茶の湯、書画骨董まで何でもできるので気に入られたのに、目付け役に「この男は双瞳で、悪相だ。すぐに追い出せ」と言われ、紀州公は大金を正雪に持たせて去ってもらったというエピソード。何やら知恵を働かせて、末には幕府転覆を狙う予兆がこの時からすでにあったのか、と思わせる連続読みの第一話。

「白隠禅師」は仏門に入って修行を積んだ心の底から清らかな禅師なんだなぁと思う。身籠ったタネの主を偽る娘のおふでが悪いが、冷静な判断ができない父の山崎屋徳兵衛も悪い。ああ、それなのに、生まれたばかりの乳飲み子を押し付けられ、しかも極悪人みたいな扱いを村人全体からされた白隠禅師は可哀想。だけど、それを運命と受け止め、村を去る決意をするなんて、どこまで出来た人間なんだろう。