鈴々舎馬るこ勉強会

まるらくご爆裂ドーン!~鈴々舎馬るこ勉強会~に行きました。下北沢で行われるこの会に前回行ったのは確かコロナ禍前だったと思う。久しぶりだ。下北沢の駅が大変貌を遂げ、というか、まだ変貌中のようであるが、会場のしもきたドーンがどこにあるのか、方向音痴の僕はしっかりと確かめて行った。ピーコックの裏、みずほ銀行の左の通りを無印良品に突き当たって右に曲がって、東洋百貨店の三階。これで覚えたぞ。僕はグーグルマップが読めない男なのだ。

一席目、「置き泥」は設定を現代に置き換えて、馬るこカラーに染め上げた逸品だと思った。金持ちそうな豪邸に目星を付けて泥棒は入るが、これがとんだ了見違いというのが面白い。中にいたのは、おむつ一枚であとは裸という男。30歳までニートをやって、親の脛をかじっていたが、あるとき10億円の宝くじが当たって、豪邸を購入、嫁ももらったが…。嫁が引越し屋と結託して、男が風呂に入っている間に全財産を持ち逃げされて、困っているという悲惨な状況だ。

憐れんだ泥棒は、「働いて稼げ」と諭すが、「上下関係とか、無理」とさすがニートらしい答え。じゃあ、生活保護を受ける手続きをしろというが、おむつ一枚では役所に行けないと言うので、「島村で上下揃えろ」と5千円を渡す。それでも何も食っていないので動けないというので、千円渡し、「吉野家で特盛を食え」と言うのが、「薄い肉は食えない」。仕方なく1万円渡す。その上、住むところも無いが、「2LDK以上じゃないと住めない」と贅沢をいうので、とうとう泥棒は「これで不動産屋に行って、千葉の大網辺りの物件を借りろ」とクレジットカードまで渡してしまうという…。衣食住すべての面倒を、この我儘なニート男に対して見てやる泥棒のお人好しは古典の置き泥以上だ。

二席目は「鼠穴」。正確に言うと随分前に覚えたネタの蔵出しだそうだが、色々と馬るこ師匠らしい工夫が施されている。なるほどな、と思ったのは、商売の元の三文から、わらしべ長者のように這い上がるのは相当難しいとした上で、サシを売る商売はリアリティがないとした点だ。昔はヤクザ者が押し売り同様に商家に売って身銭を稼いでいたそうで、その職域を荒らすことはできなかった。だから、馬糞を拾って汚わい屋に売ったり、煙草の葉っぱを細かく刻む仕事(これをちんこ切りと言ったそうだ)をしたり、人の嫌がる商売で蓄えを増やしていったという設定にしたのは流石だ。

それと夢の切れ目。娘のお花を吉原に売った50両をすられて首を括るところで目が覚めるが、また竹次郎は田舎から出てきたところからやり直す、そこまで夢だったという設定。これを何と2回も繰り返す。さすがに2回目以降は、鼠穴をちゃんと塞ぎ、50両もすられないようにガードを堅くするのだが、それでも火事は起きるし、50両はすられてしまう。それは、兄が店の奉公人に深川蛤町の竹次郎の蔵に火付けをしていたという…。

実は兄は竹次郎が「大嫌い!」だった。というのも、竹次郎は故郷で思い合っていた女と夫婦になるのだが、その女のことを実は兄が片思いしていたというのだ。だから、竹次郎が茶屋酒に溺れるのも、博奕で身を崩すのも、兄が裏から手を回した結果だというのだ。商売の元手の三文も、「お前が嫌いだから」、それしか渡さなかった。だけど、竹次郎はすごい努力して身代を築いた。悔しいので、蔵に放火をさせたというからくり。何ともブラックな「鼠穴」に改作した馬るこ師匠だが、それも全て夢だったというオチになったはずだが…。含みを持たせる終わり方で面目躍如たるところを見せた高座だった。