【談春五夜】「慶安太平記」「妲己のお百」「札所の霊験」「髪結新三」…さすが、立川談春。

浅草公会堂で「談春五夜」を観ました。(2022・05・01~07)

5月1日(日)

「初音の鼓」こはる/「慶安太平記 宇都ノ谷峠」談春/中入り/「紺屋高尾」談春

「宇都ノ谷峠」と貼り出してあったが、以前から演じている「善達の旅立ち」と同じ。相変わらずの談春節。ゴマの蠅は一体、何者なのか?とグイグイと噺に引き込まれる。「紺屋高尾」は多くの若手噺家が影響を受けた十八番。アイラブユーを二葉亭四迷は「あなたとならば死んでもいい」と訳したという、あれ。

5月2日(月)

「岸柳島」こはる/「慶安太平記 吉田の焼打ち」談春/中入り/「妲己のお百」談春

「吉田の焼打ち」は前日と同様、展開はわかっているのに、噺に引き込まれる談春のテクニックが素晴らしい。宿場町が焼けていく様子が目に見えるよう。そこに至るまでの綿密な方策が悪党の魅力。「妲己のお百」、この救いようのない陰惨な暗さが堪らない。

5月3日(火)

「粗忽の釘」こはる/「慶安太平記 箱根山」談春/中入り/「居残り佐平次」談春

「箱根山」は談春では初めて聴いた。第一夜と第二夜が往路とすれば、この日は復路。善達のキャラクターが豪快に豹変している。これは講談で聴いたから驚かないが、初めて聴いた人は不思議に思うだろう。「居残り佐平次」は以前、この噺を談春が手掛けたときにどんどん長くなって、中入りを挟んで上下に分けるところまでいった時期があったが、かなりシェイプアップされた感じで痛快に笑えた。

5月6日(金)

「山号寺号」談春/「札所の霊験」(上)談春/中入り/「桑名船」こはる/「札所の霊験」(下)談春

人間の恨みの恐ろしさをとことん追求した圓朝作品の魅力を、見事に表出させた。第二夜の妲己のお百もそうだが、とことん悪い女を描くのが実に上手い。だからこそ、その餌食になった男の執念、怨念の恐ろしさがくっきりと、生々しく浮かび上がった。

5月7日(土)

「三方一両損」談春/「髪結新三」(上)談春/中入り/「芝居の喧嘩」こはる/「髪結新三」(下)談春

白子屋のお嬢様・お熊と恋仲の手代・忠七を騙し、お熊を監禁してしまうところまでは、地噺で処理した。だから、新三が橋の上で傘を奪い忠七を蹴りつける場面など、前半のクライマックスがないのが残念。「これは歌舞伎で観てください」と談春はコメントした。中村屋へのリスペクトがあるのだという。したがって、車力の善八と弥太五郎源七親分が新三を説得にいく部分から、落語らしく演じた。4月に柳家三三で全編通しを紀伊國屋ホールで聴いてとても良かったので、聴き比べをしたかったが、これでは比べようがない。「三方一両損」など演らずに、全編通しで演じてほしかった。