澤孝子「岡野金右ェ門の恋」赤穂義士伝でも、講談とは違う味わいを魅せた一席に

木馬亭で「日本浪曲協会 5月定席」を観ました。(2022・05・04)

澤孝子師匠の「岡野金右ェ門の恋」が素晴らしかった。

本所松坂町にある米屋、平野屋の手代に身をやつしている岡野金右ェ門、20歳。吉良邸の絵図面を手に入れるために、大工棟梁の政右衛門の一人娘およねに近づくが、罪悪感に苛まれてしまうのは当然だ。

およねは岡野を一目見たときから、ぞっこんに惚れこんだ。岡野のためなら、何でもしてくれそうに思える。躊躇する岡野の背中を押したのは、堀部安兵衛だった。「色恋にうつつを抜かせというのではない。命懸けで惚れてみろ」。この一言が効いた。

夫婦は二世。たとえこの世で添えなくても、あの世で巡り合うことができる。忠義をかなぐり捨てて、およねと来世で添い遂げる覚悟で腹を切れ。

およねは岡野の頼みを聞く。「夫婦じゃないか」「一寸先は闇。あの世ではきっと夫婦でいよう」。

手文庫から絵図面を盗むおよね。それを見つける父の政右衛門。「一晩でいいの。金さんに貸してあげて」。それで察した政右衛門がすごい。「さてはあいつ…。播州の…」。「早く、持っていけ!そして、このことは誰にも喋るな」。

政右衛門も赤穂浪士の味方に付いてくれたのである。おぉ。親の情けの絵図面抱いて、金さん愛しと走るおよね。

およねを騙すのではなく、「本気で惚れてみろ」の安兵衛の後押し。およねの父の赤穂浪士の計略を全てわかった上での絵図面渡し。この2点に心動かされた浪曲であった。