【渋谷らくご4月公演 しゃべっちゃいなよ】創作の才能に長けた若手精鋭たちが意欲作をネタ卸しする醍醐味
配信で「渋谷らくご4月公演 しゃべっちゃいなよ」を観ました。(2022・04・10)
新作落語を創作するというのは、大変な作業だと思う。尚且つ、才能がなければできないことだ。そして、ネタおろしとなれば、果たして受けるのか?受けないのか?高座で、客前で演じてみないと予想がつかない。とても不安な挑みだと思う、それを果敢に挑戦しようとする噺家の皆さんに敬意を持って、今回の配信も観させてもらった。
立川寸志「の日」
記念日とか、きょうは何の日?とか、異常に多いのは日本だけかもしれない。中でも、語呂合わせのモノも相当多いし、「これはちょっと無理があるのでは?」というものも散見する。そこに目を付けたのが寸志さんだ。伊勢屋という質屋の番頭さんが、創業80年を記念して、「伊勢屋の日」なるものを考えろと旦那から命じられ、あらゆる方向から語呂合わせを考える。すると、そのうちに考えすぎて、定吉や女中の言うことが皆、数字に聞こえてしまう。「8103」(バントウサン)!は傑作だ。やがて、番頭さん自らが数字で全てを喋るようになってしまうという…。「お後の支度が46414(ヨロシイヨウ)で」(笑)。
三遊亭青森「武士道」
ある武士が「真の侍になることができるであろうか」と京都で買い求めた名刀に向かって問うている。擬古典か?と思わせる。刀が喋り出すと、これが関西弁で、「無理な話やでえ」。で、噺が進んでいくと、実は武士だと思っていた人物は、ただの高校生で、名刀は中学の修学旅行で買った木刀という。舞台が現代か!と思わせる面白さに続き、まだその高校生は武士になりきって、「令和の侍」とか言いながら、武士道を本気で貫いているのが可笑しい。新渡戸稲造、吉田松陰、乃木大将…の明言を引き合いに出しながら、もっともらしい。武士にとって命をかけて守りたいものとは?マジな高校生が妙に愉しい。
立川談洲「卸問屋」
イタコ、口寄せ、霊媒師、降霊術師…。色々な呼ばれ方をする、この手の職業(?)の胡散臭さをユーモアに包んでいるのが面白い。「死んだ婆さんと話がしたい」と旦那が番頭に頼み、集まったこの手の人たちが40人。皆が「自分の中には婆さんがいる」と主張するけれど、選抜試験をすると旦那が言い始めた途端に、32人が「正直、降りていない」と辞退するのが、まず可笑しい。そして、最終的に残った3人が、婆さんの好物、思い出の場所など100問の問いに必死に答える様子に笑ってしまう。旦那が一問ごとに、頭に「婆さんは誰だ!?」というフレーズを付けるのが何よりも面白かった。
柳家花いち「時々そば」
ある落語家(柳家花いち)の「時そば」の蕎麦を食べる仕草が下手くそで、聴いているお客が皆、蕎麦を食べたくなくなるという発想がユニーク。で、寄席の近所の蕎麦屋の子ども、マサル君が「お願いだから、『時そば』はやらないで」と懇願する。このままでは経営の危機に陥るというのが可笑しい。父親は「出前ライダー」という名前でツイッターで「ストップ・ザ・花いちの『時そば』」キャンペーンを張っているとまで。一方で、そのお陰で繁盛している近所のイタリアンレストランがあって、是非、「時そば」をやってほしい!と頼まれて…。結局、曜日に分けて、「時そば」を演る日と演らない日を設けるという折衷案が成立するという…。あえて自虐的なネタに挑んで、笑いを取る精神が面白かった。
柳家小ゑん「悲しみは埼玉に向けて」
去年亡くなった三遊亭円丈作品であるが、幹はそのままに、枝葉の部分は小ゑん師匠のオリジナル満載という素敵な高座だった。そこに目黒出身の師匠の足立区竹ノ塚在住の円丈師へのリスペクトがあるのだと思う。僕はこの噺の舞台の北千住で生まれ育ったから、よく分かるんだけど、円丈師匠がこの作品を作った頃と随分と町の様子が変わっている。それをきちんと反映させてくれているのが嬉しい。今や、北千住には駅ビルが2つ建っている。丸井とルミネ。成城石井井も入っているのだ。パチンコ屋のビックリヤもパート2と名前をリニューアルして、ビルになっている。東武日光線新栃木行きも、途中まではスカイツリーラインなんて名前に変わってしまった。そんな諸々はあるけれど、所詮北千住は北千住。その北千住臭さみたいなものを、しっかりと幹に据えている良い高座だった。