【三月大歌舞伎 第3部】「石川五右衛門」天下の大泥棒のスケールの大きさ、そして意外な出自が興味深い

歌舞伎座で「三月大歌舞伎 第3部」を観ました。(2022・03・25)

「石川五右衛門」松本幸四郎宙乗りにてつづら抜け相勤め申し候、である。

石川五右衛門が活躍したのは豊臣秀吉の治世。そのために、秀吉が貧農の子どもから一躍天下人になった史実を踏まえ、五右衛門が盗賊なら、成り上がって天下を奪った秀吉こそ、それを越す大盗賊ではないか。そうした発想の元、二人をライバルに見立てた芝居が作られたのだという。今回はそうした五右衛門物から面白い場面を取り出し、再構成した。

序幕の「大手並木松原の場」では、五右衛門の誕生秘話が明らかになるのが興味深い。巡礼姿の次左衛門はかつて芥川で癪に苦しむ武家の女性を介抱した。その女性が息を引き取ると同時に男の子を産み落とした。これを不憫に思った次左衛門は男の子を友市と名付け我が子として育てた。

しかし、友市は幼い頃から無性に人の物を欲しがり、12歳で奉公に出ると、そのまま行方知れず。長年、次左衛門はその行方を捜していたが、最近、洛中で噂の大泥棒、石川五右衛門が友市らしいと分かった。母の形見の笛と系図の一巻を手に、真人間になるように意見したいと願っている。

これが証拠に後々、五右衛門は大内義隆の落胤であることがわかる。大内家の先祖は百済王の直系の琳聖太子で、聖徳太子から大内の姓を賜った名家。自らの血筋を知った五右衛門は、天下を手に入れようとという大望を抱くというから面白い筋立てだ。

二幕目の「足利館別館奥御殿の場」での、五右衛門と此下久吉(秀吉)とのやりとりも面白い。勅使に化けて足利館に赴いた五右衛門が饗応役の久吉と対面。実は二人は幼少時代、同じ盗賊仲間であったというところ。装束姿のまま寝転がり、昔話に興じる二人の姿は微笑ましい。

久吉は五右衛門に三千両で手を打つように勧めるが、五右衛門はもっと大きな仕事がしたいと言う。これを聞いた久吉は、五右衛門に売りたいものがあると葛籠を運ばせる。中を見ると、育ての親の次左衛門が。これを買い取り、葛籠を背負って立ち去ろうとする五右衛門に、久吉が次左衛門から奪った笛を吹くと、久吉と五右衛門の差している太刀が音を立てはじめる。

実は、久吉の太刀は雄龍丸、五右衛門の太刀は雌龍丸という、共に足利家に伝わる名刀。このことから、五右衛門が足利家から雌龍丸を盗み出していたことが発覚。久吉は刀を取り戻そうと五右衛門に詰め寄るが、五右衛門は妖術を使い、消え失せる。そして、葛籠が宙を舞い、中から五右衛門が姿を現し、飛び去って行く。

宙乗り葛籠抜けの演出が、ここで観客を魅了した。

石川五右衛門:松本幸四郎 呉羽中納言氏定:大谷桂三 五右衛門父次左衛門:中村錦吾 三好修理太夫長慶:中村松江 三好四郎国長:中村歌昇 藤吉の臣左忠太:大谷廣太郎 藤吉の臣右平次:中村鷹之資 此下藤吉久吉:中村錦之助