【三月大歌舞伎 第2部】「天衣紛上野初花」仁左衛門丈の悪の演技のカッコよさに痺れる

歌舞伎座で「三月大歌舞伎 第2部」を観ました。(2022・03・17)

「天衣紛上野初花 河内山」。質見世より玄関先まで。

御数寄屋坊主の河内山宗俊。この悪党ぶりを、カッコよく魅せる仁左衛門の芝居が面白かった。

普段はカットされがちな「上州屋質見世の場」があったのが良かった。大名家に腰元として奉公中の質店の娘、お藤(奉公先では浪路)が当主・松江出雲守の妾を強要されようと困っている。それを聞いた河内山は200両で救出を請け合うという。

お藤の話を聞く前は、桑で作った木刀を質種に50両の金子を用立てようと訪問した河内山の図々しさ。御三家のひとつである紀州家からの拝領品だと大胆不敵に嘘をつくところも凄い。

で、松江候愛妾の一件。「惣菜ばかり食っているようでは、ろくな工夫もつくまい」と嘲笑う河内山。礼金200両を差し出せば、娘を無事に取り戻そうと法外な金額を持ちかける悪党のやり口が何とも言えない痛快さを覚える。

で、「松江邸書院の場」。上野・寛永寺の使僧、北谷道海に成りすました河内山相俊が、屋敷に乗り込む。松江候が一旦は仮病で面会を拒否したが、松江家の興亡に関わる大事を伝えに来たと言い、松江候を引っ張り出すあたりも実に巧い悪のやり口だ。

寛永寺の門主といえば「上野の宮様」と呼ばれる権威ある人物。しかし、門主の頼みでも浪路は返さないと拒絶する松江候。これに対し、河内山は浪路の一件を老中へ言上しようと迫る。さすがの松江候も、自らの振る舞いが幕府の耳に入ったら、御家断絶は免れないと考え、しぶしぶ浪路を返すことを承諾。

河内山の策略は成功だ。

その上で、河内山の悪事の凄いのはこのあとだ。家臣たちが運んできた膳を下げさせ、「相成るべく山吹のお茶を一服所望す」と、暗に金子を要求するのだ。その真意を察した北村大膳は扇子料という名目で進上する。

一人になった河内山、そっと布をめくって中身を確かめようとする途端、大名時計が鳴って驚き、威儀を正すところ、可笑しい。

そして、「松江邸玄関先の場」。大膳が高頬のホクロを証拠に使僧・北谷道海の正体、すなわち河内山の素性を追及すると、さすがの河内山も抗うことができない。ここでの開き直りがやっぱりすごい。

自分の身柄を若年寄に差し出すか、使僧として帰すか。もし、若年寄に差し出すなら、きょうの子細は明らかになり、松江候もただでは済まないと脅す。将軍と直接口が利ける直参は、この不祥事を直接チクることもできるのだぞ、と肚が座っている。最後の捨て台詞、「ばーかめ!」にそれが現われている。

悪党なんだけど、カッコイイ河内山宗俊に痺れた。

河内山宗俊:片岡仁左衛門 和泉屋清兵衛:河原崎権十郎 後家おまき:坂東秀調 北村大膳:中村吉之丞 宮﨑数馬:市川高麗蔵 高木小左衛門:中村歌六 松江出雲守:中村鴈治郎